腸内細菌と健康管理

腸内細菌と健康管理

腸内細菌と健康管理

WHR 20190318近年、腸内細菌が健康に与える影響が注目を集めていますが、腸内細菌叢は、個人によって大きく異なることもよく知られています。健常者の消化管などにみられる細菌の種類は多様であり、有益な微生物群といってもさまざまであることを、米ミシガン大学医学部准教授のPatrick Schloss氏らの研究チームが突き止め、この知見は、「Nature」オンライン版に4月16日掲載されました。

研究グループによると、人はそれぞれ生活史、食事、薬剤使用、環境曝露により生じた独自の細菌群をもっているということです。Schloss氏らは、300人弱の健康成人の口腔、鼻腔、腸、耳の裏、肘の内側など18カ所から細菌サンプル採取した結果、ある部位の細菌群のタイプによって、他の部位の細菌群のタイプを予測できることがわかったということです。

将来的には、この知見を医療現場に応用できる可能性があると考えられ、「細菌群のタイプの多様性と、個人が特定のタイプを持つようになる機序や、タイプが変化する機序について解明できれば、それを利用して疾患リスクを評価し、治療を個別化できるようになる」と、Schloss氏は説明しています。

また、日本人の高齢者では、腸内細菌の組成は認知症と関連している可能性があることが、国立長寿医療研究センター(愛知県)もの忘れセンターの副センター長を務める佐治直樹氏らの研究で明らかになりました。認知症患者と認知症のない高齢者では、腸内細菌の組成に大きな違いがみられたということです。研究結果は、国際脳卒中学会(ISC 2019、2月6~8日、米ホノルル)で発表され、論文は「Scientific Reports」1月30日オンライン版に掲載されました。

この研究では、同センターの高齢の患者128人から採取した便検体を分析しました。その結果、認知症患者は、認知症のない高齢者に比べてアンモニアやインドール、フェノールなどの特定の物質の濃度が高いことが明らかになりました。また、認知症患者では、「バクテロイデス」と呼ばれる細菌が少なく、種類が分からないその他の細菌が多いことも分かりました。バクテロイデスとは、感染症の原因菌を排除する働きを持ち、腸内で有益な細胞群の一つと考えられています。腸内に生息する何兆もの細菌や微生物が構成する「腸内細菌叢」は、最近の研究で消化を助ける以外にも、免疫の防御機構やビタミン、抗炎症性物質の生成、さらには脳神経細胞間の信号を伝達する化学物質の産生まで、幅広い身体機能に影響を与えることが分かっています。また、腸内細菌の組成は肥満や喘息、1型糖尿病といったさまざまな疾患リスクと関連することも明らかになっています。

ところで、腸内細菌の改善、というとヨーグルトや納豆などの発酵食品や食物繊維などが真っ先に連想されがちですが、食生活だけではなく、睡眠も腸内細菌に影響を与える可能性があります。睡眠不足によっても腸内細菌のバランスが変わるとの研究結果が、スウェーデン、ウプサラ大学のJonathan Cedernaes氏らにより示され、「Molecular Metabolism」12月号に掲載されました。

今回の研究でCedernaes氏らは、正常体重の健康な男性9人の睡眠を制限し、睡眠不足が腸内細菌の種類の数に及ぼす影響を調べました。被験者は2日連続で、睡眠を一晩4時間に制限しました。その結果、腸内細菌の多様性には変化はみられなかったものの、睡眠不足によって既存の細菌群のバランスが変化しました。同氏らは、睡眠不足の影響に対する感受性を評価し、脳の機能と代謝の健康に及ぼす影響について、さらなる研究が必要であると述べています。

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