脳卒中を発症してから長期間が経過した患者を対象とした研究から、リハビリテーション(リハビリ)として「乗馬療法」や、リズムと音楽を組み合わせた「リズム音楽療法」を実施することで身体機能や認知機能が改善する可能性が示されました。「Stroke」6月号に掲載されたこの研究は、ニューカッスル大学(オーストラリア)のMichael Nilsson氏らが実施したものです。
研究の対象は、スウェーデンの大学病院で治療を受けた、発症から10カ月以上5年以内の脳卒中患者123人。これらの患者を乗馬療法群、リズム音楽療法群、標準治療を行う対照群のいずれかに41人ずつランダムに割り付けました。それぞれを専門とするセラピストが主導した結果、これらのリハビリが終了してから6カ月後のバランス能力と移動能力は、対照群よりも乗馬療法群とリズム音楽療法群の方が優れていました。また、身体機能や日常生活動作、移動能力、コミュニケーションといったさまざまな面で「回復した」と感じている患者の割合も、乗馬療法群とリズム音楽療法群で高いことが明らかになりました。
Nilsson氏によると、最近の研究で脳には一度機能を失ってもリハビリによって回復する力(可塑性)があることが明らかになりつつあり、発症から長期間が経過した慢性期での回復も徐々に注目されつつあるということです。同氏は、今回の研究結果を踏まえ「機能を改善させるのに遅過ぎることはない」と強調しています。乗馬療法では馬の動きによって健康な人が歩行するときと同様の「感覚運動の経験」が得られるほか、精神的・社会的なつながりがもたらされるといった効果も期待されています。また、リズム音楽療法にも身体や感覚、精神を刺激する効果があると考えられています。
また、脳卒中のリハビリには、乗馬や音楽の他に、体系的な運動プログラムも身体面だけでなく認知面にも有益であることが、米ヒューストンで開催された国際脳卒中会議で2月22日に発表されました。たとえば、中等度の有酸素運動と筋力、バランスのトレーニングを併用することが、脳卒中患者の知的鋭敏さの向上に最も有効であることが示唆されています。研究を率いた米ピッツバーグ大学のLauren Oberlin氏は、「運動は身体の動きや筋力、生活の質だけでなく認知力も向上させる」と述べています。また、脳卒中から3カ月以上経過していても運動は有効でした。今回の被験者は脳卒中から平均約2.5年経過していました。
最も効果のあったプログラムは筋力、バランス、ストレッチ、有酸素運動を合わせたもので、心拍数を上げ、汗をかくものがよいとOberlin氏は指摘しています。しかし、激しい運動である必要はなく、ウォーキングマシンやリカベント型(背もたれ付き)エアロバイク、ローイングマシンも有益だというだということです。運動が脳卒中後の知能向上に効果をもたらす理由としては、脳への血行改善、新たな脳細胞の増殖と細胞間の接続の促進、炎症の軽減などが考えられます。ただし、運動機能に問題がある場合は専門家の指導によるプログラムが必要だと、同氏は述べています。
脳卒中発症後にできるだけ早くリハビリを行うことが重要であることは知られていますが、これらの研究から、発症から長期間が経過した後も引き続きリハビリを行うことで、一定の効果が得られる可能性が示されたと言えるでしょう。