睡眠を遮断したときの脳の各領域の反応には、「体内時計」と「体内砂時計」がともに影響していることが新たな研究で示され、「Science」2016年8月12日号に掲載されました。ベルギー、リエージュ大学の研究グループが実施した今回の研究では、健康かつ若年のボランティア33人に42時間起きていてもらい、その間に注意力および反応時間の試験を実施し、さらにMRI検査により脳活動を記録しました。予想通り、断眠時間が長くなるほど試験の成績は低下していました。一方で、検査の結果、「概日リズム」と「恒常的睡眠欲」という2つの基礎的な生物学的プロセスの間に複雑な相互作用があることが明らかにされました。「概日リズム」は時計のようなもので、光と暗闇に反応して睡眠・覚醒サイクルを決定します。それに対して、「睡眠欲」は砂時計のようなものであり、起きている時間が長くなるほど眠りたい欲求が増大するものです。
このため、たとえば午前7時から翌朝の午前7時まで起きていた後に寝る場合、眠りには落ちるものの、「体内の目覚まし」が鳴って数時間で目が覚めます。「睡眠時間の長さを決定する主要因は、起きていた時間の長さではなく、体内の『時刻』である」と指摘されます。現代の工業化社会では人工光があふれているため、覚醒時間が夜遅くにずれこみ、不眠症増加の一因となっていると考えられます。睡眠不足によって仕事の能力は低下し、事故リスクが増大する原因となります。また、習慣的な睡眠不足の人は2型糖尿病や心疾患などのリスクも高くなると言われています。
睡眠は健康の維持に非常に大切であり、十分な睡眠をとることで以下のような様々な効果が期待されます。
①成長ホルモンの分泌が促進され、日々の活動で受けたダメージを回復できます。
②からだが必要とする水分を十分に行き渡らせることができます。
③ストレスホルモンが分泌されるのを防止します。
④うつ病リスクの低減に役立ちます。
睡眠時間の長さだけでなく、体内時計に基づいて生活のリズムを整え、良質な睡眠を十分にとることが大切です。