肥満対策に苦慮するアメリカ

肥満対策に苦慮するアメリカ

肥満対策に苦慮するアメリカ

2016年1月アメリカでは、国をあげて肥満対策に取り組んでいるものの、成人の肥満率は相変わらず全米規模で高水準のまま。肥満は心臓疾患、糖尿病、高血圧などの生活習慣病の原因となり、毎年、肥満に関連する疾患に1470億ドルもの医療費が使われている。アメリカにおける肥満政策の現状を報告する。

 

25歳以上の男性の75%、女性の67%が肥満または太りすぎ 

先頃、アメリカ国民の健康向上を目指す非営利団体Trust for America’s Health (TFAH)が、「2015年版アメリカ国民の肥満の現状」を発表した。発表では、アメリカにおける成人の肥満率は横ばいで、高水準の状態に変わりないと報告されている。アメリカでは、肥満が深刻な問題となっているが、昔からそうだったわけではない。1980年に肥満率が15%以上、1991年の段階でも肥満率が20%以上という州は存在しなかった。ところが今では、成人の34.9%、2歳から19歳までの17%、2歳から5歳までの約8%が肥満という状況だ。肥満が原因で心臓病や糖尿病、がんの発症リスクを抱えている場合も多い。

オバマ大統領夫人、子供の肥満撲滅を目指すキャンペーン 

このような現状を受け、連邦政府を筆頭に各州および各市がさまざまな肥満対策を実施している。2010年にはミッシェル・オバマ大統領夫人が、子供肥満撲滅を目指すキャンペーン「Let’s Move」を立ち上げた。学校に自転車や徒歩で通える道路を作り、食品業界に手頃な価格の健康的な商品作りを呼びかけた。ネブラスカ州リンカーン市では、ヘルシーな食生活と運動を奨励する屋外フェスティバルを開催。また、公立学校を対象に、職場の自動販売機で健康な飲料水を販売するよう呼びかけるなどのプログラムを推進した。その結果、子供の肥満率が8.2%減少し、大人の肥満も減少傾向に転じた。また、コネチカット州ニューブリテン市では、幼稚園の給食メニューに野菜やフルーツを増やした他、保護者を対象にヘルシーフード料理教室を開くなど子どもの肥満対策に力を入れた。これにより、4歳児の太りすぎや肥満が33.3%減少した。

今年6月、FDAがトランス脂肪酸使用禁止へ 

アメリカにおける肥満対策の展望について、先述のTFAHのエグゼクティブ・ディレクター、ジェフリー・レヴィ氏は次のように語る。肥満の予防そして肥満人口の削減に対する過去10年間の努力は功を奏しており、横ばいになったのはその成果といえる。とはいえ、肥満率はいまだに高い状態が続いており、決して喜べる状況ではない。これまでの経験から、有効な肥満対策プログラムに力を注げば、成果があがることは分かっている。しかし、横ばいから減少に転じるには、まだまだ努力が必要だ」「横ばい」から「減少」へのステップとして、食品医薬品局(FDA)は今年6月、心臓疾患のリスクを高めるとされる「トランス脂肪酸」の食品への使用を禁じると発表した。食品業界に3年間の猶予を与え、2018年6月以降から食品への添加が原則認められないことになる。この新規則により、食品業界には今後20年間に60億ドルを超える負担がかかると推測されるが、同期間に1300億ドルの医療費が削減されるとみられている。アメリカで肥満に関連する病気にかかる医療費は、年間1470億ドルから2100億ドルと推定される。肥満のアメリカ人は、健康的な体重のアメリカ人より医療費を42%多く支払っている。

肥満指標であるボディーマス指数(BMI)が高ければ高いほど病欠が増え、医療費も多く支払うことになる。今後、次世代にターゲットをあてた肥満対策が功を奏して「横ばい」から「減少」に転じるか、大きな関心が寄せられている。

TOP