米国2015年版栄養ガイドライン巡り、議論沸騰

米国2015年版栄養ガイドライン巡り、議論沸騰

米国2015年版栄養ガイドライン巡り、議論沸騰

2015年11月今年末に公表を控えている「2015年版アメリカ人のための栄養ガイドライン」が物議を醸している。専門家から科学的エビデンスがない、環境への配慮に欠けるなどの声が挙がっている。5年ごとに改訂される栄養ガイドラインを巡る論争を報告する。

 

今回3万近いパブリックコメント、高まる食への関心 

「アメリカ人のための栄養ガイドライン」は、米厚生省と農務省が5年ごとに発行しており、対象年齢は2歳以上となっている。政府の栄養政策をはじめ、食品表示から学校給食、医師の患者へのアドバイスまで幅広く影響を与えている。医師や科学者などの専門家による諮問委員会が、食に関する最新の研究報告を検証して報告書を作成し、それに基づいて厚生省と農務省が改訂版のガイドラインを発行する。改訂にあたり毎回パブリックコメントを求めるが、5年前の前回は2,000件だったが、今回は2万9000件に増加しており、食への関心の高まりがうかがえる。

コレステロール、「過剰摂取を懸念する栄養素ではない」 

現在、ガイドラインの改訂に向けて諮問委員会の討議が詰めの段階に入っているが、難題が持ち上がっている。最新の科学的エビデンスに裏付けられていないと指摘する記事が報じられ、また、食の環境におよぼす影響「持続可能性」が項目に含まれないことが発表されたのだ。

ガイドラインについては、これまでも健康より政治色が強いとの批判があった。食生活と深い関わりのある慢性疾患がいっこうに減らない状況に対し、「食品業界のロビイストのためでなく消費者のためになるガイドラインを」と望む声が強まっていた。2015年版は、任命された14人の専門家が570頁におよぶ報告書を作成した。その大筋が、「果物、野菜、全穀物、シーフード、木の実、豆をたくさん摂り、高脂肪の乳製品はほどほどに、赤身の肉と加工肉は控え目に、砂糖と精製された穀物はごく少量に」とこれまでとあまり変わらない。

一方で、今回の報告書には、これまで摂取を制限してきたコレステロールを「過剰摂取を懸念する栄養素とみなさない」とする見解が示されている。食事によるコレステロールの摂取と血中コレステロールとの間に因果関係がないことが、科学的に実証されているからというのがその理由だ。

最新の研究報告を無視しているとの批判 

公表を数カ月後に控えているガイドラインだが、先頃、その内容に疑問を投げかける報道もあった。医学雑誌BMJに掲載された記事で、著者はニューヨーク在住のジャーナリストのNina Teicholz氏。同氏は、報告書の中で飽和脂肪や低炭水化物ダイエットなどの重要な項目が、最新の科学研究報告に基づいていないと指摘している。諮問委員会はこれまでのガイドラインと相反する最新の研究報告に目をつぶり、飽和脂肪の摂取量が多いことと心臓発作と脳卒中のリスクが高くなることの間に因果関係はないという、ここ5年間の研究報告を無視している、さらに低炭水化物ダイエットに関する多くの研究報告も重視していない、と批判した。

また、2010年版ガイドラインの諮問委員会は、研究報告を体系的に分析するために農務省が設立したNutrition Evidence Libraryを利用して報告書を作成したが、2015年版委員会は項目の約70%でこれを利用せず、食品や医薬品の業界から資金援助を受けている米国心臓協会や米国心臓病学会などのデータを参考にしていると指摘。さらに、委員会メンバーと食品業界との利益相反についても記事の中で触れている。

持続可能性が盛り込まれず議論噴出 

この記事が物議を醸したのはいうまでもないが、そうした中、厚生省と農務省がつい先日、「2015年版ガイドラインには持続可能性は含まない」と発言したため、ガイドラインをめぐる議論はさらに沸騰した。というのも、食料源の環境に与える影響を考慮し、持続性を重視する持続可能性は近年、アメリカ人の大きな関心事の一つとなっているからだ。

Food Information Council FoundationのFood & Health Survey 2015では、アメリカ人の64%が持続可能性について考えたことがあると回答している。家畜の飼育は、野菜や穀物の栽培以上に多くの土地や資源を必要とするうえ、温室効果ガスが排出されるなど持続可能性と相反する。そのため、環境保護活動家のアル・ゴア元副大統領はビーガン(菜食主義者)になったともいわれるほど。

食料政策提唱団体や環境保護団体も、持続可能性を含むようパブリックコメントで強く求めていたが、2015年版はあくまで1990年に施行されたNational Nutrition Monitoring and Related Research Actに基づき、肥満や生活習慣病を予防するための栄養に関するガイドラインに徹し、持続可能性の問題には触れないとした。食肉業界も持続可能性を扱うことに強く反対しており、今回の決定を大歓迎しているという。とはいえ、今後持続可能性の問題が尾を引くのは必至で、改訂のたびに議論を呼ぶことになりそうだ。

TOP