米国で糖尿病患者増加、政府が対策に本腰

米国で糖尿病患者増加、政府が対策に本腰

米国で糖尿病患者増加、政府が対策に本腰

2014年6月号米国で糖尿病の患者が増えている。とりわけ子どもの糖尿病患者が増加傾向にあり、つい先日もメディアで大々的に報じられた。政府は昨年、国民の糖尿病への予防意識を高めるために毎年11月を糖尿病予防月間に指定した。米国における糖尿病の現状と政府の取り組みを報告する。

 

大人の10人に1人は糖尿病患者 

大人の糖尿病患者が増えているという研究報告が、4月に内科医学学会誌に掲載された。ジョンホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部の疫学准教授らによる研究で、National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)の1988年-1994年と1999年-2010年のデータをまとめたものだ。この研究では、米国で糖尿病の患者数が1988年から2倍に増えており、今では10人に1人が糖尿病と診断されていると報告している。1980年代後半から1990年代初め、患者数は総人口の5.5%だったが、2010年までに9.3%に増加。2010年には成人約2100万人が糖尿病と診断されている。また、糖尿病予備軍も、1988年から2010年までに総人口の6%弱から12%強に増加していることが明らかになった。

糖尿病は血糖値が高くなる病気で、大きく1型と2型に分けられる。1型はすい臓のβ細胞というインスリンを作る細胞が破壊され、身体の中のインスリンの量が不足して発症する。体内の免疫細胞がすい臓を攻撃することが主な原因と考えられている。子どもが発症することが多いことから、以前は小児糖尿病などと呼ばれていた。

糖尿病の合併症発症率、1990年から減少傾向に 

2型はインスリンの分泌低下または感受性低下が原因とされ、遺伝子因子と生活習慣がからみあって発症する生活習慣病で、米国では糖尿病全体の90~95%を占めている(National Diabetes Education Program調べ)。研究報告では、糖尿病患者の増加は肥満人口の増加と深く結びついていると結論づけており、早歩きの散歩を1日30分行い、体重を5~7%減らせば2型は予防できると指摘している。

一方で、朗報も入ってきている。権威ある学会誌New England Journal of Medicineの4月17日号に掲載された米国政府の最新調査によると、糖尿病患者は増加傾向にあるが、糖尿病患者の合併症発症率は1990年から現在に至るまで減少傾向にあるという。糖尿病による主な合併症のうち、心臓発作は約70%、脳卒中は約50%、体肢切断は約50%、末期の腎臓疾患は28%、危機的な高血糖による死亡は65%といずれも減少しているという。合併症発症率の減少の要因としては、糖尿病治療の進歩、自己管理の向上、糖尿病についての教育などが挙げられている。

子どもの糖尿病発症率、ここ8年で急増 

糖尿病というと、これまで生活習慣の乱れによる大人の病気と思われていたが、米国ではこの8年間に子どもの糖尿病患者が急増していることが、American Medical Association機関誌5月7日号に掲載の調査報告で明らかになった。調査報告は、カナダのバンクーバーで5月3日に行われた小児科アカデミック・ソサエティーの年次会合で発表されたもので、2001年から2009年の間に子どもの1型糖尿病罹患率は21%、2型は30.5%といずれも上昇しており、罹患率の上昇は男子と女子の両方、全人種でみられると指摘している。2001年に1型と診断された子どもは調査対象者約300万人のうち約5,000人だったが、2009年には約6,700人に増えている。増加がみられなかったのは、年齢別では0歳から4歳のグループのみで、人種別ではアジア・太平洋系のみだった。また、2型は、2001年には調査対象者約200万人のうち588人だったが、2009年には819人に増えている。人種別では、アメリカン・インディアンとアジア・太平洋系では増加がみられなかった。

子供の糖尿病患者増加の原因は明らかになっていないが、1型は自己免疫性の病気であることから、環境が何らかの影響を及ぼしている可能性が高いとみられている。また、2型は大人と同じく肥満の増加によるものと考えられる。調査報告では、糖尿病が今後20年間深刻な医療問題になると懸念し、予防の大切さを指摘している。

オバマ政権、11月を糖尿病予防月間に指定 

このような糖尿病の増加に伴い、オバマ政権は昨年、11月を糖尿病予防月間とすることを宣言した。糖尿病が深刻な医療問題になるのを防ぐため、国民の予防および治療に対する認識を高めるのが狙いだ。加えて患者の支援、科学研究の推進、治療の向上、予防の強化に尽力する方針だ。

また、2014年に施行された医療保険改革法によって、糖尿病の既存症状があってもこれまでのように医療保険への加入を拒否されることがなくなった。さらに、全米糖尿病予防プログラムを設けて公共および民間の機関と提携し、糖尿病予備軍の生活指導を支援するだけでなく、予防とともに症状の悪化を防ぐ指導をしていくことを計画している。

農務省(USDA)は今年3月に、傘下のNational Institute of Food and Agriculture(NIFA)を通じて、子どもの肥満を予防するプログラムの開発のために米国の3大学に対して計500万ドルの助成金を支給すると発表した。今回対象となるのはテネシー大学、タフツ大学、ウィンストン・セーラム州立大学の3校で、いずれも子どもを対象としたヘルシーな食生活の促進と肥満予防を目的としたプログラムの開発を計画している。USDAは今後、子どもの肥満予防法の開発を目指して研究費などにさらに900万ドルを投じる予定だ。

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