米国で日本発祥のマクロビオティクス(以下マクロビ)がヘルシーな食事法として高い評価を得ている。そこで注目されているのが、マクロビの主食となる玄米。前回の大豆に続き、アメリカ人が健康作りで最も関心を寄せる和の食材を取り上げる。
米ぬかの粘膜免疫、ビル&メリンダ・ゲイツ財団で研究支援
世界最大の慈善基金団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」。2000年、世界の病気や貧困の撲滅を目的に、マイクロソフト会長のビル・ゲイツと妻のメリンダが創設した財団(本部:ワシントン州シアトル)である。
現在、この財団が研究費を支援しているのが、米コロラド州立大学の研究員らによる研究、そのテーマが「米ぬかの粘膜免疫向上効果」である。
米ぬかは、玄米を精白する過程で、除去した表皮や胚芽を粉末にしたもの。ビタミンB群や各種ミネラル、食物繊維などを豊富に含むため、栄養の宝庫と呼ばれている。
研究は、世界中の子供たちの病気や死亡原因となる、サルモネラやロタウィルスといった消化管の病原菌に対抗する米ぬかの機能性について調べるというもの。
数多くある病原菌に、一つひとつ予防接種で対応していくというのは困難を極める。そこで、粘膜免疫を向上させ、病原菌を駆逐する米ぬかの可能性を追求するというのが研究の狙いである。
同研究のマウス実験では、米ぬかによるサルモネラ菌の感染防止やマウスの体にもともと存在する乳酸菌を増やす働きが立証されている。米ぬかが腸内細菌叢を刺激し、乳酸菌を増やすと考えられているが、そのメカニズムについては現在も研究中だ。
全粒穀物の心臓病やがん予防への有効性表示が認可
日本のヘルシーフードの定番ともいえる玄米が、近年、米国で健康に良い食品として定着しつつある。
2008年、米食品医薬品局(FDA)が玄米を全粒穀物として認めたことから、玄米商品に全粒穀物の認定ロゴと「心臓病とがんを予防する効果がある」という健康上の有効性が表示できるようになった。
USA Rice Federationによると、玄米の売り上げは、2006年にはわずか6300万ドルだったが、その後毎年1000万ドルのペースで緩やかに増加。2008年のFDAのお墨付きをきっかけに2009年には1億1000万ドルの大台に乗り、2010年には1億1900万ドルと順調な伸びを示している。
今や、健康食品店はもちろん、一般スーパーでも玄米が売られているほどだ。また、レストランのメニューでも玄米をよく目にするようになってきた。
さらに、筋肉量を増やし基礎代謝を高めると、ボディービルダーやシェイプアップを目指すアメリカ人たちの間で大ブームのプロテインパウダーにもついに玄米版が登場。動物性食品を一切使わず、アレルギー誘発性のプロテインも含んでいないため、ビーガン(動物性食品を一切摂らない菜食主義者)の間でも安心して摂取できると人気を呼んでいる。
こうした店頭に並ぶ玄米プロテインのほとんどが、エンザイム(酵素)を使用し、ろ過、発酵といったプロセスを踏んでいる。玄米の健康効果に着目した米農務省は現在、玄米のプロテインパウダーに高血圧を改善する効果があるかどうかを調べているという。
未精白穀物を摂取するほど病気に罹らない傾向
近年、米国でこうした和の食材がブームとなった発端は、やはり前回紹介した「2005年版アメリカ人の栄養ガイドライン」であろう。ここで初めて、全粒穀物はアメリカ人の肥満や高血圧、動脈硬化など生活習慣病を防ぐと、その健康効果を明示した。
これまでに発表されている玄米に代表される未精白穀物の有用性報告を幾つか挙げてみよう。
ミネソタ大学研究者グループが、未精白穀物を1日1杯以下から3杯以上摂取の範囲で被験者の健康状態を調べたところ、高齢者では少なくとも1日1杯食べれば、疾患からの死亡率が15%減少することがわかったという。また、Iowa Women’s Health Study参加者の55歳から69歳までの3万8千740人を調べたところ、未精白穀物を摂取するほど被験者は病気に罹らない健康な生活が営める傾向に あったという(American Journal of Public Health誌)。
全粒穀物は肥満や高血圧の解消にも大いに期待されている。全粒穀物は体脂肪の減少に役立つと、Journal of Nutrition誌2012.3月号で報じている。
University of Copenhagenなどの研究者グループが、閉経後で過体重または肥満女性79例を対象に12週間の研究を行った。被験者には、精製小麦製品または全粒小麦製品のどちらかを与えた。
12週間後、体脂肪を調べたところ、精製群は2.1%減少だったが、全粒群は3%減少だった。さらに、悪玉といわれるLDLコレステロールは、精製小麦群は5%増大していたが、全粒群では変化が認められなかったという。