音楽は魂のクスリ、研究で効果が実証  ミュージックセラピー

音楽は魂のクスリ、研究で効果が実証  ミュージックセラピー

音楽は魂のクスリ、研究で効果が実証  ミュージックセラピー

report_201212 情緒のカタルシスに音楽が有効である――と、音楽の効用を説いたのは、ギリシャの哲学者アリストテレス。また、古代エジプト人は音楽を「魂のクスリ」とよんでいた。そして今、ストレスを解消し、免疫力を高めると、音楽の幅広い効能が心と体のセラピーとして注目を集めている。アメリカでのミュージックセラピーの現況を報告する。

精神病院慰問の慈善活動で用いられたのがはじまり

ミュージックセラピー(音楽療法)は、ストレスなどで病んだ心や体の症状を改善したり、痛みを緩和し生活の質の向上を図る目的で音楽を用いる療法。ただ聴くだけでなく、歌ったり、演奏したり、踊ったりするなど能動的な方法もある。

自分の好みやその時々の心と体の状態にあった音楽を聴いてリラックスしたり、元気になったり、そんな利用法ももちろんあるが、基本的には専門知識を持った音楽療法士が行う治療法だ。実際に医療現場では下記のような治療に音楽療法が使われている。

ターミナルケアの苦痛緩和および精神安定
手術・治療時の不安と苦痛の緩和
パーキンソン病の治療
アルツハイマー病の治療
自閉症、学習障害、コミュニケーション障害などを持つ子供の症状改善

また、ストレスや疲労を緩和する、血圧を下げる、心拍数を安定させる、うつ状態を改善する、集中力を高める、免疫力を高める、不眠を緩和するといった効果も報告されている。

アメリカで音楽がセラピーとして確立されたのは20世紀初頭。精神病院慰問の慈善活動として用いられたのがはじまりだ。戦争で負傷した兵士たちが、音楽を聴き、歌い、演奏することで心の健康を回復する訓練が施され、音楽の癒し効果が本格的に研究されるようになった。
1950年には全米音楽療法協会が設立。精神病患者だけでなく、子供から高齢者までさまざまなニーズに合わせた身近な療法として広まっていった。

アルツハイマー患者の記憶力がアップしたという報告も

音楽の効き目を実証した最新の研究を紹介しよう。
まずは、アイビーリーグ名門エール大学の医学部が5月に発表した研究報告。同研究報告は「手術中にお気に入りの音楽を聴いた患者は、麻酔の量が少なくてすむ」と結論づけている。手術中の音楽の効果はこれまでにも報告されており、手術の時に流すCDライブラリーを設けている病院もあるほどだ。

アルツハイマー病への治療効果も報告されている。カリフォルニア大学アーバイン校の研究報告によると、アルツハイマー患者にモーツアルトのピアノソナタを聴かせたところ、記憶力テストのスコアが劇的にアップしたという。

パーキンソン病患者への効果を確認したのは、コロラド州立大学の神経リハビリテーション研究センターとミシガン大学のヒューマン・モーター研究センター による共同研究。パーキンソン病患者の歩行リハビリで少しテンポの速い曲を流したところ、歩調が早まり、歩幅も大きくなるという改善が見られた。またパー キンソン病によるうつ状態も改善されたという。通常のリハビリに音楽療法を組み合わせることで、パーキンソン病の治療効果がアップすることが指摘されてい る。

オハイオ州のユニバーシティー・ホスピタルス・オブ・クリーブランドの研究は、免疫力アップ効果を報告。ただし、免疫力向上の持続期間については明らかになっていない。

音楽が人の気分にどんな影響を与えるかについての研究もある。
音楽療法誌に1995年掲載された研究報告によると、対象を2つのグループに分け、ひとつにはテンポの速いハッピームードの音楽を、もうひとつにはテンポの遅いマイナーコードの音楽をそれぞれ聴かせて、全員にまったく同じ絵を見せた。そして、絵のイメージが「楽しい」か「悲しい」かをたずねたところ、同じ絵を見ているにもかかわらず、ハッピーな音楽を聴いた対象は「楽しい」と、マイナーコードの音楽を聴いた対象は「悲しい」と回答が分かれたという。

目的別に作られた「デザイナー・ミュージック」も登場

そんな音楽の効用を利用して、ヒーリング(癒し)効果を狙った「デザイナー・ミュージック」も登場している。脳波に最大限の影響を与えるよう厳選した音を使って作られた音楽だ。瞑想、集中力向上、ストレス解消、不眠解消、痛みの緩和を目的に利用されているほか、自閉症の子供の治療にも取り入れられてい る。

デザイナー・ミュージックで有名なのがHemi-Sync。集中力を高める、不安な気持ちを鎮めるといった目的別に脳の働きを活性化する数多くのCDを制作している。リスナーはヘッドフォーンを使用。右の耳と左の耳からそれぞれ周波の異なる音が聴こえてくることで、「バイナラル・ビート」と呼ばれる第3の音が形成される。この第3の音が脳波に影響を与えるという。

そして、デザイナー・ミュージックの作曲者として有名なのが、 the Institute of HeartMathの創設者、Doc Childre。こちらは、子供や青少年を対象に心拍数を上げ気分を高揚させるCDなどを制作している。

グランジ・ロック(荒々しいサウンド)で攻撃的に

ところで、音楽によって人はどのような影響を受けるのだろうか。
成人とティーンエイジャー合わせて144人を対象にしたこんな研究がある。対象に、クラシック音楽、グランジ・ロック(ロックのような荒々しいサウンドを特徴とする音楽)、ニューエージ音楽、デザイナー音楽と異なる4種類の音楽を聴いてもらった。

選曲は、クラシック音楽は、モーツアルトの「Six German Dances」と「 Piano Concerto in D minor」。グランジ・ロックは、「Last Exit」「 Spin the Black Circle」「 Not for you」といったいずれも男性ボーカルで絶叫型のロック。
ニューエイジ音楽は、「How Can I Keep From Singing?」 「Marble Halls」「 After Ventus」などいずれも女性のソロボーカルでスローテンポの癒し系音楽。デザイナー音楽は、「Street Sax」 「Cappuccino—A Way to Start the Day」「 Global Anthem」など、アップビートで聴きやすいタイプ。各ジャンルの音楽をそれぞれ聴いた直後に、どんな気分なったかについてアンケート調査を実施した。
結果は下記の通り。

<クラシック音楽>
緊張感を緩和しリラックス効果はあるものの、ほかの気分にはあまり影響を与えなかった。

<グランジ・ロック>
攻撃的、疲労感、悲しみ、緊張感が高まり、逆に、リラックスする、活力がわく、頭がクリアになる、優しい気持ちになるといった感情が極めて乏しくなるとこが分かった。

<ニューエイジ音楽>
緊張感が和らぎ、リラックスし、攻撃的でなくなる一方、頭がクリアになる、活力がわくといった面が乏しくなる。

<デザイナー音楽>
リラックスする、頭がクリアになる、活力がわく、優しい気持ちになる一方、攻撃的な気分、悲しみ、疲労、緊張感が少なくなる。

その時々の自分の気分に向いた音楽を選んで日常のメンタルヘルスに役立てたり、痛み緩和などで医療現場で、そして身体機能の維持を目的に高齢者施設、学習障害や多動性障害の症状改善に学校でと、今後ますます音楽療法の需要が高まるものと予想されている。

 

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