心の深層に刻まれたトラウマを開放、アートセラピー  

心の深層に刻まれたトラウマを開放、アートセラピー  

心の深層に刻まれたトラウマを開放、アートセラピー  

kaigai20 絵は多くを語る――。言葉ではうまく表現できない心のモヤモヤを、絵画を通して表現する。同時多発テロや超大型ハリケーン「カトリーナ」といった惨事が続くアメリカで、不安や怒りといったネガティブな感情をアートに吐き出し、心を楽にしようとするアートセラピーに関心が集まっている。最新情報を報告する。

災害で受けた心の傷も、絵を描くことで癒される

倒壊するツインタワービル、燃えさかる炎、立ち上る噴煙、そして、次々にビルから飛び降りる人々。01年9月11日、アメリカを襲った同時多発テロの直後、ショックを受けた子供たちはそうした絵を描いた。
アートセラピスト(絵画療法士)は、心の深層に刻まれたトラウマ(精神的外傷)を開放するには、「絵に描いて表現させること、それが癒しにつながる」という。
アートセラピーによる、9.11からの癒しの過程で、「なぜ起きたの?」という言葉を世界地図に綴った子供もいた。惨事について自分なりに理解しようとし始めたサイン、とアートセラピストは説明する。

癒しはさらに「回復」へと向かう。子供と恐竜が一緒にニューヨークを再建する絵、消防士たちが活躍する姿、星条旗、そうしたポジティブな風景が絵の中にみられるようになっていった。

アートセラピストによると、作品を仕上げることで、自身の心の傷が癒され、精神の安定が図られるという。
同様に、昨年、大型ハリケーン「カトリーナ」の被災地でも、アートセラピーのニーズは高まった。

また、性的虐待で精神的なトラウマを抱える子供たちのケアでもアートセラピーが求められている。性的虐待による心の傷を言葉で表現するのは、大人でも難かしい。ましてや語彙の少ない子供はなおさらだ。

アートセラピーとは

絵を描いたり、貼り絵をしたり、あるいは粘土を用いたり――そうした、芸術的作業で心を癒す。アートセラピーは、心身の不調を正す心理療法の一つといえる。
アートセラピーは、アメリカで、1910年代に教育者でセラピストのマーガレット・ナウンバーグ女史が心理療法にアートを取り入れたのがことのはじまりとされている。30年代にカンザス州の精神病院で使われ、50、60年代にさらに広がりをみせた。

患者は、作品の仕上げに熱中することでストレスが解消され、心身の不調が修正される。資格を持ったアートセラピストが、作品に刻まれた患者の心の状態を分析し、癒しに向かうためのサポートを行う。
言葉を介して行われる通常のカウンセリングと違いアートを介して心の修復を行う。老若男女、年代を問わず、誰でも手軽にはじめられる。とくに、言葉で心のモヤモヤやトラウマをうまく表現できない子供たちには最適の療法といえる。

自己発見や達成感などの効果

—- では、アート作りにはどんな効果が秘められているのか?

自己発見:自分の内面を作品にさらけ出すことで、あらたな自己を発見し、心のモヤモヤから解放される。

達成感:作品作りの過程で自分の内面を表現し視覚化するほか、作品を介したカウンセリングを通じて、自信を回復し、達成感が得られる。

エンパワーメント:これまで言葉では表現しきれなかった怒りや不安といった感情を作品を通じて発散できることで、感情のコントロールができるという自信をもつ。

ストレス解消:慢性のストレスは心と体の敵。免疫力を下げるほか、不眠やうつ病を引き起こし、高血圧や不整脈の原因になることも。アート作りに熱中し、頭を適度に働かせることで、健康の天敵であるストレスを解消する。

痛みの緩和:2005年1月1日付「ジャーナル・オブ・ペイン・アンド・シンプトム・マネー ジメント」に掲載された研究では、アートセラピーに痛みの緩和と不安解消に効果があると報告している。研究は4ヶ月間にわたりがん患者50人を対象に実施。対象にアートセラピーを受けさせたところ、9つの症状のうち8つが改善されたことが分かったという。改善された症状は、痛み、疲労、鬱症状、不安、め まい、食欲不振、体調不良、呼吸困難。吐き気だけが改善されなかった。このことから、患者がアート作りに熱中することで、症状が改善されたと結論付けてい る。

認知障害の改善:アルツハイマー病患者に対しリクリエーショナルセラピーの一環としてアート作りをさせたところ、手を使うことなどで脳が刺激され、認知障害がわずかながら改善されたという報告がある。また、家族であると認識できなくなっていた患 者が、名前までは思い出さないものの、家族の顔がわかるまでに回復したというケースも報告されている。

ビジネスマンから高齢者まで、幅広い年齢層に支持

アメリカで、アートセラピーを導入している機関は多い。病院の心療内科や精神科はもちろん、高齢者介護施設、ホスピス、家庭内暴力被害者保護施設、ホー ムレス保護施設、学校、刑務所など。また、アートセラピストによるワークショップも全米各地で開催されている。これには、心の病を治すというよりも、自分 を見つめ直す目的で参加する人が多いようだ。

アートセラピストらによると、ワークショップに参加する年齢層は幅広く、10代から高齢者まで。目的もさまざまだ。ティーンエイジャーたちの価値観探しから、働き盛りのプロフェッショナルたちは仕事・家庭・自分の時間のバランスのとり方、ミドルエイジ層は過去にとらわれない将来の生き方、高齢者はこれまでの生き方の集大成――こうしたテーマについて、自分なりの答えを求めて参加しているという。

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