スローフードで、人に豊かな「食」や「健康」見直す

スローフードで、人に豊かな「食」や「健康」見直す

スローフードで、人に豊かな「食」や「健康」見直す

kaigai25 鳥インフルエンザや狂牛病の影響から、世界的に魚食志向が高まるなど、「健康」に配慮した「食」を求める動きが強まっている。インスタントフード、ジャンクフード、ファーストフードといった、経済効率を優先させ、大量生産された手軽な「食」ではなく、人に豊かさと健康をもたらす本来の「食」のあり方を見直すため、今「スローフード」という言葉が注目されている。

健康管理に未精製穀物の摂食を推奨

最近、アメリカの主要スーパーにキノアやアマランサスといったペルー産穀類が並び始めた。これらは通常の小麦全粒と比べ、栄養価が高いといわれている。
例えば、食物繊維は、通常の小麦は12.2g、アマランサスが15.2g、キノアが15.5g。プロテインはそれぞれ13.7g、14.5g、14.2g。鉄分では、3.8mg、7.6mg、4mg(資料;Bob’s Red Mill)。

アマランサス取引の大手、NuWorld Amaranthでは、ここ3年で300%の売り上げ増という。

昨年1月、「2005年版アメリカ人の栄養ガイドライン」(米国保健社会福祉局)が発表された。同ガイドラインは、アメリカ国民の健康管理に必要な栄養摂取基準を示したもので、5年ごとに改訂される。
この中で、トップ項目に挙げられたのが「摂取カロリーの削減」と「果物・野菜・全穀物の摂取」。心臓病や肥満症の増加に悩むアメリカでは未精製の穀物の摂食の重要性が見直されているが、ガイドラインでもそれが強調された。

そうした経緯から、アメリカでは前述のアマランサスなど食物繊維やビタミン・ミネラルを多く含む全穀物の需要が高まっている。精白され、加工された食品ではなく、ビタミン・ミネラルや食物繊維を豊富に含む未精製の食品にこそ、人の健康を根幹から維持するパワーが潜んでいると誰もが認識し始めているのだ。

近年、経済効率の論理が食品業界にもおよび、流通に適した「食品」の開発が重視され、多くの加工処理がほどこされた。さらに消費者の便利・手軽・嗜好というニーズを満たすため、自然とかけ離れた「食」の大量生産に拍車がかかった。

しかしながら、そうした歪んだ「食」がもたらした結果がアレルギーの増加や生活習慣病の蔓延ではなかったか。「食」は、人の精神形成にも大きな影響を及ぼす。利便性を追求した近代食は、真に人に豊かさをもたらすものだったのか、消費者自らが反省し始めたのだ。

スローフード。この言葉が今アメリカで注目されつつある。ファーストフードの対極にあるものとして名づけられた。ジャンクフードにインスタントフード、 ファーストフード、そんな現代の食文化の反動からか、今アメリカでスローフード志向が静かに浸透している。「食」の本質を見極め、人間性をも高める「食」 とは何かを探る、さらにそれは、人の健康や病気予防へと繋がっていく。「スローフード」という言葉はそうした自然の摂理に即したライフスタイルをもあらわす。

1986年、イタリアからスローフード運動のうぶ声

ファーストフード文化が全世界に普及したことで、いつでもどこでも手軽に食事が楽しめるようになった。しかし、そうした同じ傾向の「食」や「嗜好」が世界中に広がり、伝統的な生産方法や調理法が消えていくことに危機感を覚えた人物がイタリアにいた。「食材や味は本来、もっと個性的なものであるべき。その土地に根付いた伝統的な料理や味を無くしてはいけない」、そうした理念を運動へと高めていった。

土地伝来の野菜や果物、地方特有のワインやビール、牧場で作られるチーズなど職人の作る名産などを「スローフード」というわけではない。特別な素材を指 しているわけではなく、昔から伝わる料理や食習慣、またレシピなどを伝える、また納得のいく食材を探し料理する、楽しみながら食事をするといった消費者のライフスタイルから、手間ひま掛けて食材を作り上げるという生産者側のポリシーまでもカバーする哲学、いわゆるそうした「生き方」を指している。

1986年、Carlo Petriniがイタリアのブラという都市から始まったこの運動は、フランスやドイツなどヨーロッパ全体に行き渡る。現在では、アメリカ、日本など現在、 50ヶ国以上の8万人を上回る人々が賛同し、多くのメンバーを擁する団体へと成長している。本部をイタリア・ブラに置き、全世界の会員とのコミュニケーションを図る「スローフード・イタリア」、「スローフード・インターナショナル」などがあり、機関紙「SLOW」などの書籍編集、出版、インターネットサイトの管理、食文化の啓蒙や食育に繋がる国際的イベント主催など多彩な活動を行っている。

狂牛病や鳥インフルエンザ、大豆やコーンなどの遺伝子組み換え、食物アレルギー、加工食品の発がん物質などが多く話題に上るようになり、消費者はようやく「食」の本質に目を向け始めたといえる。

ファーストフード社会のアメリカでも、コンヴィヴィウムと呼ばれる地方支部が140カ所に設立され、スローフード運動は着実に人々の心を掴み始めている。国民の60%以上が太りすぎといわれるアメリカ。必要な「食」を適切に摂ること、人に「豊かさ」と「健康」をもたらす「食」とは何か—など、食生活の見直しを迫られている。

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