アメリカで太極拳の健康効果が注目されている。関節炎やパーキンソン病の症状を緩和し、さらには禁煙にも役立つという。太極拳がもたらす健康効果について報告する。
気血の循環を高め、心と体を芯から癒す
太極拳は、中国古来の太極思想を背景に体系化された中国武術のひとつ。一説には、16世紀後半の中国、ヘビとツルが闘っている夢を見た武術家が、その動きの美しさにインスピレーションを得て生み出したともいわれる。
アメリカには、気血の流れをスムーズにし、体内の陰陽のバランスを整え、心と体を芯から癒す「マインド&ボディ健康法」として、1970年代に紹介された。
全身を使い、呼吸と合わせながら円を描くようなゆっくりとした動きで、気血の流れを良くするため五臓六腑(肝・心・脾・肺・腎、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)の機能が活性化する。基礎代謝が活発になり、老廃物が体外に排出される。
「緩やかな動き」「瞑想」「深呼吸」がポイント
太極拳では、体の主な筋肉と関節を、「緩やか」に、流れるように動かす。体のバランス感覚が養われ、瞬発力や体力がつき、筋肉の柔軟性が強化される。骨密度の減少を抑え、骨粗しょう症の予防にも良いとされている。
「瞑想」の効果は数多くの研究で立証されている。ストレスを解消し、不安感を和らげ、心を癒し、集中力を高める。また、血圧を下げ、心拍を整えるなどの効果も報告されている。
「呼吸」は、身体にフレッシュな酸素を供給し、脳の血液循環が活発になり、頭の働きも活性化する。
太極拳により、気血の循環がよくなり、循環呼吸器系、消化器系、自律神経系に好影響がもたらされるといわれている。
水疱帯状疱疹ウィルスへの免疫力がアップ
行動医学誌に掲載された研究報告によると、太極拳をする人は、鬱になったり不安になることが少なく、集中力が高まり、よく眠れ、精神状態が常に安定しているという。ストレス解消から、つい一服といったこともなくなり、禁煙にも一役買う。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究では、太極拳が疱疹の抑制に役立つことが報告されている。高齢者を対象に、15週間にわたり太極拳のクラスを受けてもらったところ、水疱帯状疱疹ウィルスへの免疫力が50%アップしたという。同研究は、太極拳による気血の循環で、ある種のウィルスに対する免疫力が高まった可能性を示唆するものとして注目されている。
骨粗しょう症と診断された平均年齢68歳を対象とした研究報告では、痛みの緩和が報告されている。対象を2グループにわけ、一方は12週間にわたり1時間の太極拳クラスに週2回参加、もう一方は太極拳クラスに参加しなかった。
結果、太極拳に参加したグループは骨粗しょう症の痛みの症状が緩和され、疲労感がとれ、体力もつき、精神的にも安定したと報告。一方、太極拳に参加しなかったグループはほとんど変わらない、あるいは症状が進んだと報告している。
他にも、全米で100万人以上いるといわれるパーキンソン病患者が体のバランス感覚を取り戻すのに効果があるとして、全米パーキンソン財団は、パーキンソン病患者およびその介護者らを対象に、太極拳やヨガのクラスに資金援助している。