心のパワーで身体の病を癒すバイオフィードバック。喘息にADHD(注意欠陥・多動性障害)にと効用も幅広く、取り入れる医療施設が増えている。バイオフィードバックの効用とは。
測定器を使い、呼吸法や瞑想などで体の調子を整える
「BIO」は「生体」、「FEEDBACK」は「情報を返す」の意。バイオフィードバックは、マインドでボディーをコントロールする、今話題のマインド・ボディー・セラピーのひとつだ。
心拍数、血圧、体温、脳波、筋肉の緊張度などをチェックする測定器を体につけ、モニターを見ながら身体の状態を把握する。モニターからリアルタイムでフィードバックされる生体情報をもとに、専門家のアドバイスを受けながら、リラクゼーションやイメージなどのテクニックを用い身体の状態を意識的に調節する。
たとえば、緊張からくる頭痛の場合、筋肉がどのように緊張しているかをモニターで確認し、緊張からリラックスへと転換する方法をマスターする。体がどう 緊張するか、どうすればリラックスできるかを学ぶ。生体活動を調整するコツをつかむと、筋肉の緊張をやわらげたり、心拍数や体温、血圧などをセルフコント ロールすることも可能だ。
測定器を使い科学的に体の状態を把握しながら、呼吸法や瞑想などのテクニックを使い体の調子を整えることから「西洋のヨガ」とも呼ばれている。米国では1500カ所を超える医療施設で、不整脈、頭痛、てんかんなどの治療に利用されている。
疾患の治療から運動能力の向上まで、幅広く利用
バイオフィードバックは、1960年代に心理学者でイエール大学の神経科学者、ニール・ミラー氏が自律神経系は意識的にコントロールできると立証したことに端を発する。後に、ミラー氏は「バイオフィードバックの父」と呼ばれる。
その後、エルマ・グリーン氏らが偏頭痛などの治療に応用し、数多くの研究報告を発表する。1969年には、心理学者のバーバラ・ブラウン氏がバイオフィードバックと命名、バイオフィードバック・リサーチ協会が設立される。
バイオフィードバックの治療効果は幅広い。注意欠陥・多動性障害(ADHD)、てんかん、偏頭痛・緊張型頭痛、慢性的痛み、喘息、血管障害レイノー病、 過敏性腸症候群、ほてり、化学療法による吐き気、失禁、不整脈、高血圧、うつ、不安、ストレス、強迫神経症、などへの有効性が報告されている。また、運動 選手のパフォーマンス向上など用途も広がっている。
喘息やADHDへの効用が科学的に立証
中でも、注目されているのが、喘息やADHDの改善。米国の喘息患者は大人2030万人、子供630万人といわれ、薬品による治療がメインだが、ここにきてバイオフィードバックに期待がかかっている。
最近のThe American Academy of Chest Physiciansの機関紙「CHEST」で、大人の患者94人を対象にした調査を報告している。研究では、薬で喘息の症状を抑えている患者を、1)バ イオフィードバックと呼吸法の組み合わせ、2)バイオフィードバックのみ、3)バイオフィードバックを偽ったプラシーボ・セラピー、4)バイオフィードバックなし――の4グループに分け、最初の3グループは週に1回で10週間、専門家によるバイオフィードバックを実施、自宅でも1日に2回、20分間行っ た。
結果、バイオフィードバックを実施したグループ1)と2)では、薬の使用量が激減し、症状が改善。1)、2)に差異は見られなかった。また、プレシーボ 組とバイオフィードバックなし組では、症状の改善は見られなかった。ただ、研究者らは、バイオフィードバックはあくまで薬の量を減らす補助手段であり、薬 に代わる治療法ではないと指摘している。
また、食事をしたり話したりする際に痛みを感じる顎関節症(患者数は米総人口の約10%といわれる)についても効果が報告されている。ダラスのテキサ ス・サウスウエスタン大学医療センターが、18歳から70歳の患者、女性81人と男性20人を対象にバイオフィードバックによる効果を調査。研究では、患者をバイオフィードバックと一般的な歯の治療のみの2グループに分け、6週間にわたり治療を行った。バイオフィードバック組は、学んだテクニックを使いその後も自宅で行なった。1年後に調べたところ、バイオフィードバック組は痛みが緩和され、症状のコントロールができるようになったという。一方、歯の治療のみの組は、痛みの治療のため頻繁に歯医者に通っていたという。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)への効果も立証されている。患者の80%は薬を飲むことで症状が緩和される。しかし、薬がまったく効かない患者も少なくない。また、長期にわたる薬の服用に懸念の声があがっている。
そこでバイオフィードバックが注目されているが、NYのADD専門クリニックが、6歳から19歳のADHD患者100人を対象に1年間にわたり調査。 1)薬服用とカウンセリング、2)薬服用とカウンセリングにバイオフィードバックをプラス、の2グループに分けたところ、2)は、薬の量が半分に減ったほか、うち40%は薬がいらなくなったという。一方、通常の治療だけの患者の症状は、そのままだった。
他にも、尿失禁に悩む55歳から92歳の女性197人を対象にした調査で、バイオフィードバックで失禁の回数が80%減少したことが報告されている。