地中海ダイエット(地中海式食事)のヘルシー効果が注目されている。小児ぜんそくからアルツハイマー病の予防までさまざまな効用が相次いで報告され、アメリカの健康業界では「全穀ブーム」に次ぐ新たなトレンドとして話題を呼んでいる。地中海ダイエットの効用とは。
オリーブオイルをベースに、果物や野菜、穀物、魚介類を多く摂る
今年4月初旬、ロンドンのNational Heart and Lung Instituteの研究チームが、小児ぜんそくに関する研究成果を報告した。
それによると、ギリシャのクレタ島に住む7歳から18歳の子供約700人を対象にした調査で、フルーツや野菜を主に食べている子供は、そうでない子供に比べぜんそくなどの呼吸器系疾患のリスクが低いことが分かったという。
また、豆類を少なくとも週に3回食べている子供も、ぜんそくのリスクが低かったという。さらに、 マーガリンをよく食べる子供は食べない子供に比べ、ぜんそくのリスクが2倍高いことも分かったという。
この報告により、ギリシャに住む人々が伝統的に摂る食事、いわゆる地中海ダイエットがもたらす健康効果の一端が明らかとなった。
地中海ダイエットは、地中海沿岸地域の昔ながらの食生活を原点としたヘルシーな食事。中でもギリシャ、イタリア南部、キプロス、ポルトガル、トルコ、スペインの伝統食が柱になっている。
これらの地域の食事で共通しているのは、オリーブオイルをベースにした調理で、果物や野菜、穀物、魚介類を多く摂り、適度な量の赤ワインをほぼ毎日のように飲用することだ。
地中海ダイエットは、悪玉コレステロールを増やす飽和脂肪が少なく、善玉コレステロールを増やし悪玉を減らす一価不飽和脂肪や植物繊維が豊富で健康管理の食事として理想的。日本の和食とともに世界の二大長寿食ともいわれている。
<地中海ダイエットの特徴>
*果物や野菜、シリアル、豆類、種子などを多く食べる
*油はオリーブオイルを中心に使う(抗酸化パワーのある一価不飽和脂肪を豊富に含む)
*乳製品、魚介類、鶏肉を週に数回、適量を食べる
*脂肪の少ない赤身の肉をほんの少し食べる
*卵は週に最高4個まで
*赤ワインを1日に男性は2~3杯、女性は1~2杯
*適度な運動をする
1945年、アメリカ人医師が地中海ダイエットに着目
地中海地方の伝統食の健康効果に最初に着目したのは、イタリアのサレルノに住んでいたアメリカ人医師、アンセル・キーズ氏といわれている。
1945年に、氏は地中海ダイエットの効用を提唱、その後、世界各国の疫学調査や臨床試験の結果から、世界保健機構(WHO)も注目するようになる。オ リーブオイル中心の調理に果物や野菜、穀物、魚介類などの食事が健康管理に理想的であるというレシピが世界的に知られるようになる。
ところで、前出の小児ぜんそくに関する研究報告では、豆類にフリーラジカルから細胞を守るビタミンEが多く含まれているほか、オリーブオイルやレッドグ レープの皮に含まれるポリフェノールが酸化を防ぐことなどから、アレルギーや炎症を引き起こす物質の産生が抑えられ、ぜんそく予防に効果があると考えられ ている。
地中海ダイエットによる不安定狭心症、急性心筋梗塞、心臓突然死といった急性冠症候群(ACS)の予防効果も最近、European Journal of Cardiovascular Prevention & Rehabilitationで発表されている。
それによると、2003年10月から2004年9月にわたり、重度のACSでギリシャの病院に入院した患者2172人(うち男性1649人)を対象に調査。地中海ダイエットと適量のワインを摂り、運動、禁煙を実施しているかどうかを4点制で採点したところ、1点以上の人のACS再発のリスクは 44%~84%低いことが分かったという。
心臓発作の再発を予防
今年3月、心臓病学会でワシントン州スポーケンのプロビデンス医療研究センターの医師らが、地中海ダイエットには心臓発作の再発を予防する効果があると報告している。
それによると、6週間前に心臓発作を起こした患者202人を対象に調査を実施。50人を米国心臓病協会の推進する「低脂肪ダイエット」、51人を「地中海ダイエット」、残り101人を「病院からの通常のアドバイスを受けるだけ」という3つのグループに分け、いずれのグループも、アスピリンやベータブロッ カーなどの心臓発作を予防する薬も同時に服用した。
4年後に調べたところ、「低脂肪ダイエット」と「地中海ダイエット」の2グループはいずれも83%が再発しておらず、「病院からのアドバイス」のみのグループで再発しなかった患者は53%にとどまったという。また、ダイエット・グループは両方ともコレステロール値が下がったが、アドバイスのみのグループでは改善は見られなかったという。
アルツハイマー病のリスク低下で話題に
さらに、アルツハイマー病の予防効果でも話題を呼んでいる。ニューヨークのコロンビア大学医療センターの研究チームが、米国神経学会の学会誌で発表した 研究報告では、ニューヨークに住む高齢者(平均76歳)2258人を1992年から2001年にわたり調査。ワインを適量飲み、赤みの肉はごくわずか、野菜や果物を豊富に摂るなど、地中海ダイエットにどれほど則した食事をしたかを9点制で採点した。
その結果、7~9点と高得点だった対象がアルツハイマー病に罹るリスクは、0点の対象より39%~40%低かった。また、4~6点の対象は、0点の対象より15%~25%低かったという。