50歳以上のアメリカ人、7割が代替医療を利用 米国NCCAM(代替医療調査センター)報告

50歳以上のアメリカ人、7割が代替医療を利用 米国NCCAM(代替医療調査センター)報告

50歳以上のアメリカ人、7割が代替医療を利用 米国NCCAM(代替医療調査センター)報告

kaigai41 アメリカで2007年6月、日本では8月25日から公開されたマイケル・ムーア監督の「Sicko」。前作「華氏911」では、同時多発テロでのブッシュ大統領の行動を批判したが、今回は米国の医療制度の闇に切り込んだ。90年代に入って、代替医療が注目、さらに統合医療へと向かう米国の現況を報告する。

 

無保険者を中心に、代替医療への関心高まる

「Sicko(シッコ)」の制作にあたり、ムーア監督は、Webサイトで米国医療制度の問題点を募り、寄せられた内容をもとにドキュメンタリータッチで映画を仕上げた。米国だけでなく、イギリス、フランス、カナダなどの医療システムも取り上げている。

映画では、ニューヨーク9・11テロで復旧に当たり、粉塵吸引が原因と見られる呼吸器疾患に苦しむ元作業員を紹介。無保険者で満足のいく治療が受けられないため、彼をキューバの医療施設へと連れていく。
ムーア監督は「キューバでは囚人でさえ、アメリカ人よりましな医療ケアを受けている」と述べているが、一方で、「この映画は正確ではない」と、内容を批判する声も上がり物議をかもした。

1990年に代替医療の利用者34%、富裕層も支持

米国では、90年代に入って代替医療が注目されるようになる。そうした背景には、「Sicko」に登場するような無保険者が全人口の15%を占め、診療 を満足にしてもらえない、高額な医療費が負担になるといったことがあった。インターネットで、健康・医療情報が広く普及したことも代替医療の浸透に一役買う。

代替医療とは、西洋医療以外の医療、伝統・伝承的に用いられてきた医療を指す。代表的なものには、漢方や鍼灸、カイロプラクティック、ホメオパシー、ハーブ療法、栄養療法、心理療法、アロマテラピー、バイオフィードバックなどがある。

1993年にハーバード大学のアイゼンベルグ教授らが代替医療の利用度を調べたところ、1990年は34%、1997年では42%に増えていた。米国医療協会誌によると、同年に212億ドルが代替医療費として支払われている。
米国民の3分の1以上が代替医療を利用しているという事実。さらに西洋医療従事者を愕然とさせたのが、無保険者ばかりでなく、富裕層にまで利用者が広がっていたことである。

米政府も有効性の立証に本格的に乗り出す

次第に、医師の間でも、西洋医療と代替医療の併用に前向きな姿勢を示す者が増え、メリーランド州、コロンビア特別区、バージニアで、内科医180人を対象に代替医療18種類について行った1995年の調査では、内科医の70%から90%がダイエット、エクササイズ、カウンセリング、睡眠療法、精神療法といった代替療法をきちんとした医療として認め、こうした療法を行っているセラピストを紹介したり、自らが治療に取り入れていると答えている。

当時、米国は国民医療費が1兆2千億ドルといわれ、医療費高騰の抑止が急務であったことから、米政府も代替医療の有効性の検証に本腰を入れるようにな る。1992年に米国立衛生研究所(NIH)に調査室(OAM)を設置し、1998年にはNIHに本格的に代替医療の有効性を調査するセンター 「NCCAM:National Center Complymentary and Medicine」を開設する。1999年には5,000万ドルの研究予算を計上し、13の大学および研究機関に研究テーマを振り分ける。

それぞれの研究テーマは、アリゾナ大学が小児医学、カリフォルニア大学が喘息、ハーバード大学が医学全般、メリーランド大学が痛み、ミネソタ大学が麻薬 中毒、スタンフォード大学が老化、ヴァージニア大学が痛み、バスチィル大学がAIDS、コロンビア大学が女性の健康、ケアラー研究所が神経リハビリ、ミシ ガン大学が心臓血管病、パルマー大学がカイロプラクティック、テキサス大学ががん、というもの。

問題は、医師と患者との情報の共有

アメリカの医療体制の問題は、ベビーブーマーがリタイアの時期を迎えつつある今、さらに大きな関心が寄せられている。昔に比べ寿命は永くなっているもの の、健康を維持することの難しさに直面している。今年初め、NCCAMが行った調査では、50歳以上のアメリカ人の3分の2以上が、マッサージやサプリメ ントなど何らかの代替療法を利用していることが分った。

代替医療のなかでも、サプリメントを用いた栄養療法は身近で手軽なこともあり、1990年代半ば以降米国で急速に利用者を増やしていった。1994年に 施行されたDSHEA(栄養補助食品教育法)で、栄養補助食品の販売規制が一部緩和されたことやハーブ療法を広く知らしめたアンドリュー・ワイル博士の存在がハーブ・サプリメント療法の普及に拍車をかけた。

ただ、こうした代替医療の利用者が増えるに従い、医療従事者の間で、医薬品とサプリメントとの併用で何か弊害(相互作用)が生じないかという問題も浮上してきた。ある種のハーブ・サプリメントについては、薬剤と併用すると効き目を阻害するものもある。

NCCAMのマーガレット チェスニー博士は代替医療の利用者が主治医と情報のやり取りをしないことを懸念、「患者が医師に代替療法の利用を告げない主な理由は、医師が尋ねないからだ。医師に告げて使用を反対されるのを恐れている患者もいる」と述べている。

問題は、医師と患者との情報の共有。特に高齢者は、飲む薬剤も多種多様になる。医師も新しい情報を常に取得し、メーカー側も正確な情報開示を行うことが求められている。

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