前回、メタボリック対策で菜食の効用を報告したが、今回はエクソサイズ(運動)がもたらす効果を報告する。すでに、さまざまなエクソサイズが健康作りに有益であることは周知だ。軽いウォーキングにしても糖尿病やがんの発症リスクを軽減することが報告されている。
毎日30分のウォーキングでメタボを解消
一頃、アメリカのビジネスマンの間でベルトの穴が一つ増えると、管理職への道が遠ざかるといわれた。自身の健康管理を出来ない者が他人を管理できるはずがないと指摘され、ジョギングやエクソサイズに励む人々が増えた。
とはいえ、相変わらずポッコリ腹のアメリカ人は多い。米国では成人人口の4分の1がメタボリックシンドローム(代謝症症候群)と推定されている。
何か、これを解消する方法はないものだろうか。激しいエクササイズでなくても、ウォーキングのような軽いものでもメタボ対策に十分効果はある。
American Journal of Cardiology誌2007年12月号に掲載された記事によると、ウォーキングを毎日30分続けるだけでもメタボの解消になるという。
デューク大学医療センターの研究で、男女171人を対象に、1)まったく運動しない、2)週にほぼ毎日30分、合計11マイルをウォーキングする、3) 週に2時間、合計11マイルをジョギングする、4)週に約3時間、合計17マイルをジョギングする、という4グループに無作為に分けた。(*1マイル=約 1.6km)
8ヶ月後、メタボの解消に極めて効果的だったのは、2)グループで、4)の最も運動量の多いグループとほぼ同じ成果が得られたという。また、3)は、さほど効果が見られなかったという。
米国版「健康作りのガイドライン」で、毎日30分以上の運動を推奨
米国では毎日30分以上の運動をしている大人は人口の50%にも満たないという報告もある。しかも25%は運動とはかけ離れた生活を送っているといわれる。また、女性は男性に比べ体を動かさないという指摘も。子どもたちの3分の1も明らかに運動不足という。
運動をまったくしないライフスタイルは、体重を増やすばかりでなく、心血管疾患や高血圧症、糖尿病、骨粗しょう症、がんなどの発症リスクを高める。
米国では、2005年に米国保健社会福祉局(HHD)が「アメリカ人の栄養ガイドライン」(5年ごとに改訂)を発表し、肥満や高血圧、動脈硬化といった 生活習慣病を防ぎ、より健康でいるための基準を示している。この中で、「摂取カロリーの削減」「果物・野菜・全穀物の摂取奨励」「定期的な運動」の3つを柱に掲げている。
運動ついては、「1日最低30分の適度な運動をほぼ毎日続ける」、「体重増を防ぐには、60分以上運動を行う」、「減量のリバウンド防止には、60分から90分の運動が望ましい」など挙げている。
運動のために毎日30分割くのはむずかしいという人も多いかも知れない。ガイドラインでは、30分続けて運動しなくても、10分間の運動を1日のうちに3回やれば効果は同じとしている。
大腸がん、前立腺がんなどのリスク低下も
ともかく、まずは気軽にウォーキングから初めてみるといいだろう。効用についてはこれまでに幾つか報告されている。ハーバード大の研究グループが、 40~65才までの女性70,102人を対象とした心臓病とがんの調査データ(Nurses’ Health Study )を1986年から8年間を分析したところ、1日に30分か1時間、足早に歩く運動をするとⅡ型糖尿病のリスクが減少することが分かったと報告している。
また、男性2万9000人を対象に、17年間追跡調査を行ったノルウェーの研究では、週に1回でも運動している人は前立腺がんの発症リスクが30%低いことが分かったという(International Journal of Cancer誌06)。
International Journal Of Cancer誌2008年1月号に掲載された記事によると、週に1時間のウォーキングでも大腸がんの発症リスクを下げるという。
ワシントン大学医学部の研究で、40歳から65歳の女性7万9295人を対象に、16年間追跡調査を行ったところ(うち547人が大腸がんを発症)、週 に1時間から2時間ほどウォーキングをしていた人は、しなかった人に比べて大腸がんの発症リスクが31%低く、週に4時間以上、ウォーキングまたはジョギ ングなどの運動をしていた人は、週に1時間以下の人に比べ44%低かったという。
ウォーキングは長生きの秘訣
ウォーキングが疾病予防になるなら、当然長寿にも繋がる。実際に、それを裏付ける研究報告もある。米国立衛生研究所(NIH)が、50歳から70歳の男女25万2925人を対象に、 平均5年間にわたり運動と死亡率の関係を調べたところ、ウォーキングのような軽い運動をほぼ毎日30分以上していた人は、まるで運動をしない人に比べ死亡リスクが27%低いことが分かったと報告している。
ジョギングなどの汗を多く流す激しい運動を週に少なくとも3日、20分以上していた人では32%低く、さらに、両方を組み合わせていた人は50%も低かったという。