アメリカで肥満が深刻化している。2015年には大人の2人に1人が肥満になるという研究報告もある。カリフォルニア州では、飲食店でのトランス脂肪酸の使用禁止条例を出すなど本格的な対策に乗り出した。アメリカにおける肥満の現況を報告する。
アメリカ人の成人約26%が肥満
「ごちそうさま」。この言葉は、アメリカ人にとっては「たいらげる」という意味合いを持つ。目の前にある食べ物がなくなった時点で「ごちそうさま」となる。ところが、同じ言葉でも、フランス人には「おなか一杯」で食べるのを止めるという合図になる。
雑誌プリベンション08年7月号が、シカゴのアメリカ人とパリのフランス人合わせて約300人を対象に、アメリカ人の20%が肥満なのに、なぜ、フランス人は5%なのか調査したところ、上記のような言葉のニュアンスにも肥満化するアメリカ人の国民性がかいま見られたという。
今年7月、疾病予防管理センター(CDC)発表の調査報告「Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR)」によると、アメリカの成人総人口の25.6%が肥満と推定されるという。2005年の同じ調査では肥満率は23.9%、2年で約2%上昇し たことになる。
また、名門ジョンズ・ホプキンス大学の公衆衛生大学院の2007年の報告でも、このままでいくと、2015年には未成年の24%が肥満か太りすぎ、大人も41%が肥満、75%が太りすぎになるという。
肥満防止のためにファーストフード店の出店禁止など政治介入
アメリカ人が肥満化する原因の一つに、砂糖や水分、スターチ、食品添加物を多く含んだ不健康な加工食品の多食がある。調理に手間のかからない加工食品は 忙しい現代人のニーズにぴったりで、加工食品業界も毎年330億ドルを超える広告費をつぎこみ売り上げ伸ばしに躍起になっている。
アメリカで深刻化する肥満。「肥満人口の増加に歯止めをかけるには、国、州、地方自治体レベルの対策が必要だ」と、CDCの栄養・運動・肥満部門ディレクターのウィリアム・ディエッツ博士は強調する。
とはいえ、目標値(~2010年)の肥満率15%を達成できている州は、なんとゼロ。アラバマ、ミシシッピー、テネシーの3州にいたっては、30%を超えている。目標値に最も近かったのは、コロラド州で18.7%だった。
そこで、本格的な肥満対策に乗り出したのが健康志向の高いカリフォルニア州。今年7月、アーノルド・シュワルツェネッガー州知事は州内の飲食店でのトランス脂肪酸を含む調理油やマーガリン、ショートニングの使用を禁止する法案に署名した。
トランス脂肪酸は血中の悪玉コレステロール(LDL)を増やし、動脈硬化や心疾患のリスクを高め、肥満を促進するといわれている。
また、ロサンゼルス市議会も今年7月、平均より肥満度の高いサウスロサンゼルスでのファストフード店の新規出店を1年間禁止する条例案を可決した。さらに、ロサンゼルスのファストフード店のメニューにカロリー掲載を義務付けることなども検討している。
ちなみに、サウスロサンゼルスの飲食店の73%はファストフード店だが、高所得者が多く健康志向の高いウエストロサンゼルスでは42%。ファストフード店の進出を抑えることで、ヘルシーな料理を提供する飲食店を誘致できればと期待している。
朝食と自己管理記録がダイエットの秘訣
今年6月、サンフランシスコで内分泌協会学会が開かれ、朝食のダイエット効果に関する研究報告が発表された。炭水化物とたんぱく質を豊富に含んだ朝食で、1日に必要なカロリーの半分近くをしっかり摂れば、その後1日、空腹をさほど感じないためダイエットが期待できるという。アメリカで一時、ローカーボ (低炭水化物)ダイエットがブームになったが、この研究で、効果がないことも明らかになった。
研究では、体をあまり動かさず、肥満でメタボリックシンドロームの女性94人を半分に分け、一方は1日の摂取カロリー1240kcalのうち半分近い 610kcalを高炭水化物・高たんぱく質の朝食で摂り(ビッグ朝食群)、もう一方は1085kcalのうち少量の290kcalを低炭水化物・高たんぱ く質の朝食で摂る(ローカーボ朝食群)食生活を続けた。
4ヶ月後、ビッグ朝食群は平均約23ポンド、ローカーボ朝食群も平均約28ポンドといずれも体重が減少し、この時点では、両群にさほど差は見られなかっ た。ところが8ヶ月後、ローカーボ朝食群は平均18ポンド体重が増えたのに対し、ビッグ朝食群はさらに平均16.5ポンド体重が減ったという。
また、今日何を食べたかを記録している人は、そうでない人に比べダイエットの成功率が高いという研究報告もある。American Journal of Preventive Medicine08年8月号に掲載された記事によると、ダイエットをしている太りすぎの女性1700人を対象にした研究で、毎日何を食べたか日記をつけ ている人の場合、6ヶ月後、平均13ポンド体重が減ったが、つけていない人は平均9ポンドだったという。