アメリカ人の平均寿命が伸びている。しかし、その裏で、高額の医療費に生活苦を強いられる高齢者も増えている。アメリカの高齢者の現状と、アルツハイマー予防など健康に関する最新研究報告についてまとめてみた。
米総人口の12%が65歳以上、平均寿命は78.1歳に
今年6月、米国疾病予防管理センター(CDC)の統計で、アメリカ人の平均寿命が78.1歳と過去最高を記録したことが分かった。人種および性別では、白人男性が76歳、女性が81歳、黒人男性が70歳で女性は76.9歳だった。
Federal Interagency Forum on Aging-Related Statisticsの報告書「Older Americans 2008」によると、アメリカ総人口の約12%に当たる3,700万人が65歳以上と推定、1946年から1964年までに生まれたベビーブーマー世代が高齢化しており、2030年には7,150万人に膨れ上がることが予想されるという。
慢性病のトップ、男性は高血圧、女性は関節炎
加齢とともに忍び寄るのが慢性病のリスク。65歳以上で最も多いのは、男性では高血圧(52%)、以下、関節炎(43%)、心臓疾患(37%)、がん(24%)、糖尿病(19%)、気管支炎(11%)、脳卒中とぜんそく(ともに10%)と続く。
一方、女性は関節炎と高血圧(罹患率は65歳以上の女性の54%)が最も多く、次いで、心臓疾患(26%)、がん(19%)、糖尿病(17%)、ぜんそく(12%)、気管支炎(10%)、脳卒中(8%)。
薬代も含めた医療費は平均1万3052ドルで、医療保険でカバーされない自己負担額は、低所得の高齢者の場合、年収の約30%にも達する。
高額な医療費で生活苦の高齢者増加
アメリカで高齢者の10人に1人は貧困で、破産申請した高齢者は、1991年の2倍に達している――そんなショッキングな調査報告が今年6月、発表され た。ハーバード大学法学部教授らの研究報告によると、2007年、約360万人の65歳以上のアメリカ人が貧困生活を送っており、前年の340万を上回るという。
また、2007年に借金で破産した人のうち、55歳以上が全体の22.3%を占め、1991年の8.7%を大幅に上回った。一方、34歳以下では、91 年の45.5%から26.1%に減少している。高齢者に貧困および破産申請が増えた理由のトップに、医療費が挙げられている。
迫られるアルツハイマー症対策、最新の研究報告
高齢者の頭の中に、「病気=破産リスク」の構図がしっかりインプットされているせいか、健康のためなら死んでもいい――というほど、極端なまでに健康に執着する人が増えている。また、それに応えるかのように、高齢者を対象にした健康関連の研究報告も次々と発表されている。
中でも多いのが、認知症予防の研究報告。エクササイズ(運動)が認知症の症状改善に効果があるという研究報告が、The Journal of the American Medical Association誌9月3日号に掲載されている。
対象は認知症とは診断されていないが、50歳以上で物覚えの悪くなった138人。自宅で24週間、歩行など軽い運動を少なくとも週に3回、50分する群 と、通常のケアを受ける群の2群に分けた。24週間後に比べたところ、「通常ケア群」は「運動群」に比べ、運動する時間が週に142時間少なかった。
24週間後に認知力を測定するADAS-Cogを行ったところ、運動群は通常ケア群に比べ認知力で改善が見られた。さらに12ヵ月後に同じ測定テストを行ったところ、運動群はその後、同じ運動量をこなしていなくても、認知力の改善が維持されていることも分かったという。
また、ビタミンB不足は認知障害を誘発するという研究報告が、Proceedings of the National Academy of Sciences誌8月26日号に掲載されている。Tufts University研究者グループらが、マウスを、ビタミンBおよびメチオニンを含む標準のエサ、ビタミンB(葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6)を含まないエサを与える群に分け、10週間経過観察を行った。
マウスに迷路テストなどを行ったところ、ビタミンBを与えなかった群は与えた群に比べ、テストを終了する時間が平均的に長かったことが分かったという。 研究者らは、ビタミンBが不足すると、脳内の毛細血管が短くなり血液循環に影響を与え、認知障害を起こすと考察している。
アルツハイマー症の予防に、ブドウの種子の抽出液が役立つことも報告されている(The Journal of Neuroscience誌6月18日号)。アルツハイマー症のマウスを2群に分け、1)ヨーロッパブドウ(学名 Vitis vinifera)の種の抽出液を入れた水、2)ただの水を、それぞれ与えた続けた。
5ヶ月後、認知力を調べるため迷路テストと、病変を調べるため脳組織の一部を調べたところ、1)の群で画期的な改善が見られたという。ブドウの抽出液にアルツハイマー型認知症の原因と思われる脳内でのアミロイド形成を抑える働きがあるためと見られている。
また、Rejuvenation Research誌6月号に、50歳から60歳のたばこを吸わない健康な男女を対象に、1日の食事量を300から500カロリー減らしたところ、老化を遅らせることができたという研究報告が掲載されている。