アメリカではここ数年、食品を購入する際に表示をチェックする人々が増えている。環境や食品の安全性に関心を寄せる消費者に人気のマーケット「トレーダー・ジョーズ」でも、表示に目をとめる購買客の姿が見受けられる。チェックポイントはアレルギー成分の有無。アメリカで年々高まるアレルギーレス食品のニーズを報告する。
小麦やライ麦のグルテン、100人に1人がアレルギー反応
栄養成分に原産地、食品購入の際、消費者はなにかと表示を気にかける。残留農薬や遺伝子組み換えなど食品を取り巻く環境は消費者に常に食品の安全性のチェックを怠らないよう促す。
この数年、食品の品質以外に消費者が目を凝らさなければならないことがまたひとつ加わった。食品に含まれるアレルギー成分の有無だ。
アメリカでは少なくとも1種類の食品にアレルギー反応を起こす人が1200万人といわれる。中でも、小麦やライ麦などに含まれる蛋白質の一種グルテンに免疫が過剰反応を起こすアレルギー疾患、セリアック病に悩む人々が年々増えている。権威ある医療機関のひとつメイヨークリニックによると、アメリカでは100人に1人がセリアック病という。
セリアック病の患者はグルテンを含む食品を摂ると、免疫系が小腸の内膜を攻撃し内膜にある小さな突起にダメージを与えるため、小腸から栄養分を吸収できなくなる。遺伝的要因が大きいともいわれ、患者数は約300万人と推定されている。
ただ、きちんと診断されている人は、推定患者数の10分の1ほどとみられている。今のところ完治させる治療法はなく、グルテンを含む食品を食べないこと しか、症状の悪化を防ぐ方法がない。主な症状は、慢性の下痢、腹部の膨満感と痛み、貧血、疲労感、痛みとかゆみを伴う湿疹などで、過敏性腸症候群やクロー ン病の症状にも似ている。
グルテンフリー食品市場13億ドル、2008年前年比21％アップ
セリアック病になると、グルテンフリーの食生活が必須となる。自閉症や1型糖尿病、ADD/ADHDの症状緩和にもグルテンフリー食が有用であるといわれている。
Journal of Investigative Dermatology誌’07/9月号によると、Duke University Medical Center研究者グループが、疱疹状皮膚炎患者10人を「グルテンフリーの食事」と「普通の食事」の2つのグループに分け、約2年にわたり追跡調査を 行ったところ、グルテンフリーの食事を続けた患者6人は、炎症を引き起こす抗体の値が下がっていることが分かった。一方、普通の食事をしていた患者4人 は、抗体の値で変化はみられなかったという。
グルテンフリー食品市場は、不況知らずで急激に伸びている。ニールセンの市場調査によると、2008年9月までの12ヶ月間のグルテンフリー商品の売り 上げは13億ドルで、前年同期間に比べ21％アップ。健康志向の高い人たちの間では、グルテンの含有量が多い食品を避け、アレルギーではないが、グルテン フリー食を実践している人も少なくないという。
「グルテンフリー」表示は任意、グルテンフリー市場の監視機関設立
そうした中、グルテンフリー表示をめぐる問題が浮上している。昨年12月、自然食品チェーン大手ホールフーズ・マーケットが、表示に誤りがあったとして グルテンフリー食品3品の自主回収に踏み切った。その1カ月前に掲載されたシカゴトリビューン紙の記事がことの発端だった。
記事によると、ホールフーズ・マーケット限定販売のグルテンフリー食品3品から、連邦食品医薬品局（FDA）がグルテンフリー表示の基準とする 20ppmを大幅に上回る116～2220ppmのグルテンが検出され、問題の商品を食べたグルテン・アレルギーの子供少なくとも2人が病院で治療を受け たという。
これに対し、ホールフーズ側は、今後同じ問題が起きないようグルテンフリー商品を厳重に管理していくと発表した。
FDAは20ppm以下であれば商品に「グルテンフリー」表示を認めているが、あくまでも任意であり、グルテンフリーの定義は未だ確立されていないのが現状だ。さらに、グルテン値がゼロを確認できるテクノロジーも今のところ存在しないといわれる。
また、アメリカに輸入されるグルテンフリー商品のうち、FDAの検査を受けるのは1％にも満たないといわれる。つまり、「グルテンフリー」表示でも、「フリー」をはるかに上回るグルテンが含まれている可能性が高いというわけだ。
2005年、Gluten Intolerance Group of North America(GIG)が、Gluten-Free Certification Organization(GFCO)を設立した。グルテンフリー市場の監視役を買って出た格好だ。同機関では、きちんと検 査し、グルテン値が10ppm以下の商品には、同機関公認のグルテンフリー保証ロゴの表示を認めるとしている。