がん撲滅対策が奏功、大腸がん減少へ

がん撲滅対策が奏功、大腸がん減少へ

がん撲滅対策が奏功、大腸がん減少へ

kaigai57 アメリカで、3月は大腸がんの予防月間にあたる。70年代に入って、アメリカは国をあげてがん撲滅に乗り出す。中でも、大腸がんは早期発見や食生活の改善が功を奏し、罹患率・死亡率ともに減少している。アメリカにおけるがん撲滅対策の経緯と現状について報告する。

がん撲滅宣言から投じた研究費は1兆ドル

アメリカで大腸がんにかかわる医療費は、年間で84億ドルにのぼると推定されている。
米国国立がん研究所(National Cancer Institute)によると、大腸がんの罹患率および死亡率は男女ともに第3位。ここ10年、罹患率・死亡率ともに減少傾向にある。

1970年代半ば、アメリカ人の大腸がん罹患率は10万人につき約60人の割合だった。5年生存率は約51%。それが、2004年には10万人につき約48人になる。罹患率は1984年から2004年で26%に減少。5年生存率は、男女ともに約65%改善された。

アメリカはいかにがん撲滅に取り組んだのか—。
1971年、当時のニクソン大統領ががん撲滅を宣言し、National Cancer Actに署名。以降、1兆ドルを超える研究資金を既存医療に投じる。
がんにかかる年間医療費は少なくとも1100億ドルと推定、医療費全体の10%を占める。がん患者1人につき、医療費はゆうに10万ドルを超える。

2008年をみると、新たに大腸がんと診断された患者は14万8810人、うち7万7250人が男性、7万1560人が女性と推定。また、大腸がんによ る死亡者数は、4万9960人と推定される。早期発見のための50歳以上からの定期的な大腸がん検診も予防に大きく貢献している。

70年代、健康の指針を模索

70年代に入って、アメリカはがん撲滅を高らかに謡い、既存医療へ多額のがん研究資金を投じるが、一方で、がんや糖尿病のような生活習慣病と「食」が密接に関係していることに着目。「食と健康」の関連を探るべく、アメリカ人の健康の指針ともなるマニュアル作りにも注力した。その先陣を切ったのがマクガバ ンレポートである。

1975年、米国議会上院に、かつて大統領候補にもなったジョージ・マクガバン議員を委員長に「栄養問題特別委員会」を組織。「食と健康」に関する世界的規模の徹底調査にとりかかり、2年後、5000ページにもわたる膨大な報告書をまとめた。
この中で、「糖尿病は栄養のアンバランスによる代謝病」と定義するなど、がんやさまざまな疾患に、「食」の改善がいかに重要であるかを強調した。

それから10年、健康志向の高いベビーブーマー世代は中年期にさしかかると、「治療」偏重で、「予防」を軽視した既存医療の処方に疑問を投げかけ、ナチュラルなサプリメントや代替療法に関心を寄せるようになる。

1986年、医学誌New England Journal of Medicineにある論文が掲載される。
がん撲滅の戦略を変えずこのまま闘い続けても敗北は目に見えている—。ハーバード大学の研究員らが、1950年から82年までのがん統計を分析し、 がんの死亡率がまったく改善されていないことを指摘。がん研究の重点をこれまでの「治療」から「予防」にシフトする重要性を訴えた。

90年代、野菜・果物の積極的な摂食運動を展開

90年代に入り、アメリカは「予防」を重視した、がん撲滅対策を意欲的に推進する。1990年に、米国国立がん研究所が「デザイナーフーズプロジェクト」を組織し、野菜のさらなる摂食を推奨。

また、健康・医療の公共機関や民間の食品製造業者らの協力のもと、日々の「食」に、「低脂肪・高食物繊維食を」と謳い、野菜・果物を1日に5皿分以上摂ることを目標にした「5 A DAY(ファイブ・ア・デイ)」運動を展開した。

スーパーマーケットでは、子供達に野菜や果物の買い物体験や野菜の栽培収穫体験ツアーを実施するなど将来に向けての健康作りの啓蒙活動を盛んに行った。こうした日々の食事での「予防」を重視したがん戦略が、大腸がんをはじめとするがんの減少へとつながっていく。

最近の研究報告でも、野菜・果物の摂食と大腸がんの関連が報告されている。大豆に、閉経した女性の大腸がんリスクを下げる働きがあるという。
The American Journal of Clinical Nutrition誌09/2月号に掲載された記事によると、40歳から70歳の健康な女性6万8412人を約6年半追跡調査(期間中、321人が大腸がんを発症)し、それぞれ食事内容をヒアリングしたところ、閉経後の女性で、豆腐などの大豆製品を摂っている人はそうでない人に比べ大腸がんを発症するリスクが低いことが分かったという。

また、ビタミンA、C、E、葉酸、カルシウムに大腸がんのリスクを下げる働きがある(Journal of Cancer, Epidemiology, Biomarkers and Prevention誌1997年10月号)、マルチビタミンの長期服用は大腸がんの発症リスクを50%低減する、1日にビタミンE200IUを摂取する ことで、発症リスクが57%低減するといった研究報告も発表されている。

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