「国民皆保険」めざすオバマ政権、支持率低下で苦戦

「国民皆保険」めざすオバマ政権、支持率低下で苦戦

「国民皆保険」めざすオバマ政権、支持率低下で苦戦

kaigai63 「国民皆保険」を提唱するオバマ大統領が、支持率低下で苦戦を強いられている。9日、上下両院合同会議で、医療改革の意義を熱く語るオバマ大統領の姿が全米でテレビ中継されると、支持率がわずかに上昇したものの、改革法案の年内決着についてはいまだ不透明だ。米国の医療保険の現状を報告する。

医療保険未加入者は4,630万人

夜中、体の具合が悪くなりER(救急室)に駆け込むと、おそろしく混み合う待合室で、ゆうに2時間は待たされることになる。まったく、「救急」の意味をなさないが、米国でERに行ったら4、5時間は待たされる、というのが今や常識になりつつある。

待合室の窓口で聞こえてくるのは、「医療保険を持っていますか?」「持っていない」という患者と病院側とのやりとりばかり。もはや、ERは無保険の患者の駆け込み寺と化している。

患者が急病で病院を訪れたら、医療保険を持っていなくても病院側は拒否できない。

治療後、無保険の患者には支払い能力に応じた医療費を請求するが、しばしばそれは不良債権となる。

今、米国では無保険のため医者にかかれない、あるいは症状が悪化し、ERに無保険で駆け込み「医療費タダ乗り」といった問題が深刻化している。

商務省の調べでは、2008年の時点で、医療保険未加入者は4,630万人、前年に比べ60万人増えたという。オバマ大統領の医療保険改革はこの保険未加入者をいかに救済するかが焦点となっている。

医療保険未加入、18歳~24歳が最も多く同年齢層総人口の約30%

こんなに多くの国民が無保険状態の先進国は米国だけだ――とオバマ大統領は指摘する。

無保険問題を理解するには、米国の医療保険システムを知る必要がある。
米国の医療保険には、政府による公的保険と保険会社による民間保険がある。公的保険は、障害者と65歳以上の高齢者を対象とするメディケア、貧困者を対象とするメディケイドの2種類。メディケイドには貧困家庭の17歳以下の子供を対象とする州管轄の子供医療保険制度が併設されている。

一方、公的保険に加入できない人は、雇用主が提供する団体医療保険、または自分で保険会社を選び個人医療保険に加入することになる。
したがって、65歳以上については大統領の提唱する「国民皆保険」がほぼ達成されているが、若年層の医療保険未加入率は低い。

問題は公的保険の対象外の世代だが、国勢調査局によると、医療保険未加入の割合が最も高いのは18歳から24歳で同年齢層総人口の約30%、次いで25歳から34歳で約27%、35歳から44歳が約19%、45歳から54歳の約15%、55歳から64歳の約13%。

あてにならない保険料を支払い続けるより、自己負担で健康管理に努めたほうがいい

Healthreform.GOVのウェブサイトによると、2008年時点で、雇用主の提供する団体医療保険の年間保険料は家族で加入した場合、平均1万2,680ドル。最低賃金のフルタイム労働者の年収とほぼ同じである。大企業なら会社側が保険料を全額負担してくれるが、中小企業では会社がほんの一部 を負担し、残りは従業員の給与から差し引かれる。

とはいえ、会社提供の保険があっても個人負担額が多すぎて加入しない従業員も多い。また、保険料が高すぎて従業員に保険を提供できない雇用主も少なくない。

さらに、保険に入っているからと安心してもいられない。安い保険だと、控除免責料が極めて高い。年間の自己負担額が5,000ドルを超えてはじめて保険がカバーするというのもざら。

会社の提供する医療保険がこの「激安保険」だと悲惨だ。年末に激しい腹痛に襲われ、すぐに医者にかかり数千ドルを自己負担したが、治療が翌年にかかり、また振り出しに戻って数千ドルを自己負担するのはイヤだと、病院に行くのをがまんしたという話もある。

また、保険料を払っていても大病になり医療費が膨れあがれば、保険会社が理屈をつけて一方的に解約されることもある。そのため、保険料を支払えない貧困層ばかりか、世帯年収が7万5,000ドルを超える1億983万人のうち8.5%までが「無保険」を選択するといった状況だ。彼らの選んだ究極のヘルスプ ランは「病気にならないこと」。あてにならない保険料を支払い続けるより、自己負担で健康管理に努め、病気になったら貯金でまかなう。そんな発想だ。

国民の多くが、政府の保険市場への介入に抵抗感

既存の医療保険制度は、どう考えても問題ありだが、米国民の多くはオバマ政権の医療改革をそれほど歓迎していない。というのも、総人口の85%がなんら かの医療保険に加入しており、その大半が、オバマ政権の提唱する医療改革は無保険の人々に保険を提供するための改革と理解しているからだ。

そこで、大統領は上下両院合同会議を通じて、改革の目的は、無保険者に保険を提供するだけでなく、過去の病気を理由に加入の拒否を禁止するほか、個人や 雇用主が支払う保険料の上昇を抑え、だれでも手ごろな価格で購入できる保険市場を確立するといった、すでに保険を持っている人たちの利点を強調した。

それが功を奏してか、演説直後にCNNとオピニオン・リサーチ社が、成人427人を対象に実施した世論調査では、オバマ医療改革への支持が演説前の 53%から67%に上昇、反対は29%となった。また、20%が大統領案の大部分が議会で可決される可能性は非常に高いと回答、55%が可能性はあるだろ うと答えた。

しかし、保険市場への政府介入に抵抗を抱く国民はまだ多く、また、公的保険に満足している高齢者らは改革による医療の質の低下などを懸念している。セオ ドア・ルーズベルト大統領が医療保険改革を最初に唱えてから約1世紀が経過した米国。クリントン政権で挫折した「国民皆保険」が、オバマ政権ではたして実 現するのか、その行方に大きな関心が寄せられている。

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