米国で子供たちの代替療法の利用が増加している。親の影響もさることながら、既存医療と組み合わせた統合医療を勧める小児科医が増えているためだ。利用の現状、奨励団体、最新研究など、子供たちを取り巻く状況を報告する。
18歳以下の利用者は約870万人、ADHDなどの症状緩和に
米国小児科学会(AAP)の機関誌「Pediatrics」(電子版、2010年1月25日付け)に、子供の代替療法(Complymentary and Medicine、以下CAM)の利用状況をまとめた報告書が掲載された。
2007年National Health Interview Surveyのデータをもとに18歳以下の子供たちのCAMの利用状況を分析、子供対象の貴重な資料として注目されている。
同研究報告によると、米国で18歳以下、総人口の11.8%にあたる約870万人が、ビタミンを除くCAMを利用しているという。
また、乳児や幼児に比べ思春期、親が大卒で年収6万5000ドル以上の家庭、さらに親自身がCAMを利用している子供のCAM利用率が高いことも分かった。
利用頻度の高いCAMは、サプリメント・ハーブによる栄養療法
興味深いのは、CAMを6つに分類し、利用状況をまとめた報告。とくに子供たちの利用頻度の高いCAMとして、生物学に基づく療法、マインド・ボディー療法、手技とボディーベースの3つが挙げられた。
6つの分類は、以下の通り。
(1)生物学に基づく療法(サプリメント・ハーブ、食餌療法)
*ビタミン・ミネラルは対象外
(2)手技とボディーベースの療法(カイロプラクティクス、マッサージ、アレキサン
ダーテクニック、ピラテス、Feldenkreis、Trager psychophysical integration)
(3)マインド・ボディー療法(バイオフィードバック、催眠療法、guided imagery、
ヨガ、太極拳、気功、メディテーション、リラクゼーション、深呼吸療法、サポート
グループ・ミーティング、ストレスマネージメント)
(4)総体的療法(ホメオパシー、アーユルヴェーダ、naturopathy)
(5)伝統的ヒーラー(Curandero, Espiritista, Hierberoなど)
(6)エネルギー療法
また、疾患別では、ADHD(注意欠陥過活動性障害)、花粉症などのアレルギー、ぜんそく、皮膚病、発熱、吐き気、腹痛、頭痛、不眠症、学習障害、不安およびストレス、副鼻腔炎、かぜ、咽頭炎の利用頻度が高かった。
別の研究報告だが、自閉症の子供の半数以上がCAMを試しているという報告もある。ただし、CAMは疾患の治療というより、症状緩和や予防の目的に使われていることが多いともいわれている。
小児患者の安全なCAM利用に尽力するSOCIM
CAMを利用する子供たちの中には、既存医療との併用で、処方箋薬を服用しているケースが圧倒的に多い。そこで、問題になってくるのが、それらとCAMとの相互作用のリスク。
子供の健康向上を目的に、相互作用のリスク防止やCAMの健全な普及に努めているのが、米国小児科学会(AAP)のSection on Complementary and Integrative Medicine(SOCIM)である。
SOCIMは、小児科医や保護者のためのCAM教育をはじめ、子供を対象にしたCAM効果の研究支援の目的で設立された。子供の健康促進を目的に、患者 本位のケア向上を目指した方策の促進、エビデンスと安全性に裏づけられたCAMと既存の小児科医療との統合、医療関係者と家族の教育と研究促進など精力的 に活動している。
また、さまざまなプログラムやワークショップのほか、月刊誌「Pediatrics」を通じて、子供を対象にしたエビデンスに裏づけられたCAMの啓蒙 に力を入れている。そんな努力の甲斐あってか、最近では、治療の一環にCAMを組み入れる小児科医も増えており、小児科では統合医療が確立されつつある。
子ども対象のCAM研究報告も続々
CAMに関する一般的な研究報告は多いが、対象を子供に絞ったものはまだ少ない。しかし、近年、子供の利用者が増えていることから、子供対象の研究報告も相次いでいる。
American Journal of Chinese Medicine 2009年Vol.37には、皮膚針の自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状緩和効果が掲載されている。ASDの子ども32人を対象にした研究で、無作 為に皮膚針を施術するグループと施術しないグループの2つに分け調査を実施。皮膚針は6週間にわたり30回施術された。終了後、行動面は両親からの報告、 神経生理学的変化は量的脳波(QEEG)で計測した。
結果、皮膚針を施術したグループは施術しなかったグループに比べ、言語の学習能力と社会性で大きな改善がみられた。一方、運動能力では改善はみられなかったという。
医療関係者向けの週刊新聞GP2009年5月18日号には、ADHD小児患者対象のCAM効果の研究をまとめた記事が掲載されている。記事では、ADHD小児患者の間で利用率の高い、ヨガ・メディテーション、マッサージ、ハーブ、ホメオパシーの研究報告を紹介。
ヨガの研究報告では、医薬品を服用している8歳から13歳の男児でADHD患者19人を、1時間のヨガに20回参加と、ゲームやほかのアクティビティに 5回参加の2グループに分けた。評価には、ADHDの診断補助と経過観察に用いられるコナーズ親・教師評価尺度改訂版を使用。
結果、感情面および行動面で大幅な改善が見られたのが、ヨガのグループで、次いで、マッサージとハーブ、ホメオパシー、になったという。