米国ががん撲滅に乗り出して今年で39年目を迎える。国をあげての取り組みが奏功したのか、がん罹患・死亡率とも減少傾向にある。さらに拍車をと、米国がん協会では、がん撲滅2015年計画を公表した。米国のがん罹患・死亡者の現状とがん撲滅の取り組みを報告する。
2010年、米国で153万人が新たにがんを発症
2010年、米国で新たにがんと診断される患者は152万9560人、うち男性が78万9620人、女性が73万9940人。がんによる死亡者数は、男女合わせると56万9490人—。
今年7月、米国がん協会が機関誌「がん統計2010」に掲載したがん罹患・死亡者の推定人口である。
がん発症の内訳では、多い順から、男性が、前立腺がん(21万7730人)、肺がん(11万6750人)、大腸がん(7万2090人)。女性では、乳がん(20万7090人)、肺がん(10万5770人)、大腸がん(7万480人)となっている。
ちなみに、男女合わせたがん死亡者の半数をこの4つのがんが占めている。
National Institute of Healthの推定によると、2010年のがんによる経済的損失は2638億ドルで、内訳は医療費が1028億ドル、病気による生産性の損失が209億ドル、早死による生産性の損失が1401億ドルとなっている。
米国、がん撲滅への道
今年の新たながん発症者を150万人と推定するが、米国でがんの罹患・死亡率は年々減少傾向にある。
1971年、ニクソン大統領ががん撲滅を宣言し、National Cancer Actに署名。国をあげてのがん撲滅対策に、これまでに1兆ドルを超える研究資金を投じている。さらに、禁煙運動や定期検診といったがん予防の重要性を訴 えるキャンペーンを展開。そうした取り組みが着実に成果を上げている。
2000年以降のがん罹患率をみても、男性では2000年-2006年にかけ毎年1.3%ずつ、女性も1998年-2006年にかけ毎年0.5%ずつ減少。罹患率の上位4位を占める肺がん、前立腺がん、大腸がん、乳がんが確実に減っている(米国がん協会)。
また、死亡率も、1990年-2006年にかけ男性は21%、女性は12.3%、といずれも減少。その間のがんによる死亡者は、男女合わせて約76万7000人ほど減ったことになる。
男性のがん死亡率減少の8割は、肺がん、前立腺がん、大腸がんの減少によるもの。また、女性では6割が乳がんと大腸がんの減少によるものである。
ただ、その一方で、全がん患者の4%~6%という比較的罹患率の低いとされた、食道がん、腎臓がん、肝臓がん、膀胱がん、甲状腺がん、白血病などが増加傾向にある。
がん減少の要因、「食」の改善と禁煙と定期健診
米国の40年にわたるがん撲滅戦略にも、ようやく明るい兆しが見え始めてきたようだ。それに大きく貢献したのが、食事改善や禁煙キャンペーン、そしてがん定期検診の普及といわれている。
「食」の改善については、別の頁でも取り上げたが、大筋の流れはこうだ。
1971年にニクソン大統領ががん撲滅を宣言。その4年後、米国議会上院に、「栄養問題特別委員会」を組織。大統領候補にもなったジョージ・マクガバン議員が中心となり、「食と健康」に関する世界的規模の調査を開始した。
2年後、膨大な報告書がまとめられ、糖尿病やがんなどさまざまな疾患に、「食」の改善がいかに重要であるかが示され、「食」内容の見直しが強調された。
1986年には、医学誌New England Journal of Medicineに掲載された論文の中で、ハーバード大学の研究員らが、1950年から82年までのがん統計を分析、がんの死亡率がまったく改善されてい ないことを指摘し、がん予防の研究の重要性を訴えた。
90年代に入ると、米政府は野菜・果物の積極的な摂食を国民に呼びかけ、野菜・果物を1日に5皿分以上摂ることを目標にした「5 A DAY(ファイブ・ア・デイ)」運動を展開、日々の食事を「低脂肪・高食物繊維食に」が謳い文句となった。
喫煙者数、総人口の20%にまで減少
禁煙については、肺がん死亡率の87%が喫煙が原因とされていることから、政府機関は、禁煙運動を大々的に展開。ハリウッドをも巻き込む。疾病対策予防 センター(CDC)機関誌によると、2005年を境に興行収入上位の映画の中で出演者がたばこを吸うシーンが減少しているという。
そうした禁煙キャンペーンも奏功し、ここ20年、成人の喫煙者数が激減している。1965年から2004年にかけて18歳以上の喫煙者数は42%から21%に減少。2008年には喫煙者数は総人口の20.6%にあたる4600万人になったという。
また、若年層の喫煙も確実に減少している。1997年には高校生男子の48%、女子の36%が喫煙していたが、2007年には男子は30%、女子は21%に下がっているという。
がん検診の普及もがん死亡率の減少に貢献
加えて、がんの死亡率減少に大きく貢献したのが、がんの定期検診の普及。
早期発見による5年生存率の改善には目を見張るものがある。1975年-1977年には、がん患者の5年生存率が50%だったのが、1999年-2005年には、68%に改善された。
女性のがん罹患のトップである乳がんについて、National Health Interview Survey(NHIS)によると、1987年には40歳以上の女性のわずか29%しか乳がん検診(マンモグラム)を受けていなかったが、2000年には 70%に上昇、2008年は67.1%と若干減少したが、こうした乳がん検診の普及により、患者の60%は転移のない段階でがんが発見され、早期発見によ る5年生存率が98%に改善されたという。
また、子宮頸がん細胞診の普及も、子宮頸がんの死亡率減少に貢献。この30年で67%減少している。他にも、2008年NHISによると、50歳以上の 男性の44.1%が前年に前立腺がん検診を受けており、転移のみられない早期発見および治療法の改善で死亡率は1994年-2006年にかけ毎年4.1% ずつ減少しているという。
米国がん協会、さらなるがん撲滅で2015年計画公表
米国におけるがん撲滅対策は着実に成果をあげ、罹患・死亡率ともに減少傾向にあるものの、依然としてがんは心臓病に次ぎ死因の第2位に付いている。そのため、さらなるがん撲滅で、米国がん協会は2015年計画を打ち出した。
2015年までの目標として、がん死亡率を50%、罹患率を25%減少させるとし、喫煙については、18歳以上で12%、18歳以下で10%の減少を掲げた。
また、がん罹患リスクを高める肥満の防止のため、成人および未成年者の70%が、米国がん協会の推奨する運動量をこなし、彼らの75%が果物・野菜の豊富な同協会の食ガイドラインに添った食事を摂るよう働きかけるという。