ナチュラル志向で薬嫌い。そんな米国のベビーブーマー世代(団塊の世代)が加齢に伴い、メディカル・フードに関心を寄せている。米国食品医薬品局(FDA)が医薬品と栄養補助食品の中間に位置付けるメディカル・フード。高齢者人口の増加を背景に市場は拡大の一途を辿りそうだ。
米国で、毎日約1万人が65歳以上の高齢者に
1946年から1964年の間に生まれたベビーブーマー世代。今年、この世代の第一陣が米国で高齢者とされる65歳になる。
米国のどこかで、毎日約1万人が65歳の誕生日を迎え、13秒ごとに高齢者が誕生することになる。しかもこの人口推移は今後18年にわたり続くことになる。
ヘルス志向が強いベビーブーマー世代だが、加齢に伴いさまざまな慢性疾患に悩む人も少なくない。これまでのグルメ生活のツケがまわって肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームといった生活習慣病を発症している。
この世代にはオーガニックやサプリメントを好むナチュラル派が多く、医薬品よりもできるだけ自然な方法で病気を治したいという気持ちが強くある。そんな彼らが今、最も関心を寄せているのが医薬品と栄養補助食品の中間に位置するメディカル・フードである。
メディカル・フード、病気の改善を目的としたもの
栄養補助食品は健常者の病気予防を目的としたものだが、メディカル・フードは、特定の病気に必要とされる栄養分を補うことで、病気の改善を目指すという ものである。例えば、心臓病や腎臓病、肝臓病、パーキンソン病、アルツハイマー病、骨粗しょう症、糖尿病といった疾患をターゲットにしている。
メディカル・フードが栄養補助食品と違うのは、大半は処方箋がいらないが、医者の指示が必要であるということ。また、メディカル・フードは商品ラベルに 医薬品のような病気の治療効果は謳えないが、特定の病気に対する栄養補給効果の表示は認められている。現在、メディカル・フードはFDAの規制下におかれ ており、効果・効能については科学的エビデンスが必要だが、医薬品と違い臨床試験の必要はないとされている。
メディカル・フードは、FDAのGRAS(一般に安全と認められる成分)リストにあるミネラル、ビタミンやアミノ酸などの栄養成分が配合され、粉末や液体、錠剤などの形状で病院やドラッグストアー、オンラインなどで販売されている。
今後、市場規模は1500億ドルに成長の可能性も
メディカル・フードのはっきりとした市場規模は分かっていないが、2009年時点で推定16億ドルとみられている。今後、メディカル・フード市場は、1000億ドルから1500億ドルに成長するものと予想されている。
各社、メディカル・フードの新商品の開発が進む中、さまざまな研究報告が挙がってきている。今月のJournal of Clinical Lipidologyで、カリフォルニア大学アーバイン校ら米国内3大学で、メタボリック症候群の20歳から75歳の女性患者89人を対象に行った研究で は、血糖値低下作用のあるメディカル・フードと地中海式食との併用でメタボリック症候群による心臓疾患リスクが大幅に軽減できることが分かったという研究 内容を報じている。
同報告では、食品栄養成分の安全性および機能性を、遺伝子発現分析を利用して解析する学問「ニュートリゲノミクス」で捉えることの重要性について強調している。
FDA、メディカル・フードの分類の再検討を発表
こうした一方、昨年7月、科学的エビデンスで効果が立証されているはずのメディカル・フードだが、虚偽広告をはじめとする取引上の不正行為を防止する連邦取引委員会(FTC)は、大手食品企業2社に対して勧告を行った。
これにより、1社は、子ども向けミルクシェークの「免疫力保護効果」という表示を取り下げることになった。もう1社は、ヨーグルト商品が便秘に効き、風邪やインフルエンザの予防効果があるという過大広告で、FTCに和解金約2100万ドルを支払うこととなった。
FDA(米国食品医薬品局)ではこうした問題を受け、メディカル・フードの分類を再検討する必要があると発表した。メディカル・フードに関する規定は 1988年以来変わらず、栄養補助食品との境界線があいまいなことから、今後、分類上の区分を修正する可能性もあり得る。当面は、現状のままであろうが、 今後は、商品開発の際、ターゲットとなる患者の症状改善効果の科学的な裏づけをラベルに正確に記載することを強く求められそうだ。