赤ワインで頭痛が生じる人がいるのはなぜ?

赤ワインで頭痛が生じる人がいるのはなぜ?

赤ワインで頭痛が生じる人がいるのはなぜ?

ホリデーシーズンには数え切れないほどのコルク栓が開けられ、たくさんのワインが飲まれることになりますが、飲酒を楽しむ人たちの中で密かにひどい目にあう人がいます。それは赤ワインを飲んだ時だけ小さなグラス1杯でも頭痛が起きてしまう人です。今回、米カリフォルニア大学デービス校ブドウ栽培・醸造学部のApramita Devi氏らが、このような「赤ワイン頭痛」が引き起こされる原因の解明につながり得る研究結果を、「Scientific Reports」に11月20日発表しました。それによると、果物や野菜に含まれているフラボノールの一種であるケルセチンが、赤ワイン頭痛を引き起こしている可能性があるといいます。

アルコールは、まず肝臓でアセトアルデヒドに分解され、次いで、主にALDH2 (2型アセトアルデヒド脱水素酵素) により酢酸に分解されます。ALDH2遺伝子には多くの多型がありますが、その中にはALDH2の機能不全を引き起こす変異型アレルが存在します。この遺伝子を持つ人ではアセトアルデヒドがうまく分解されずに蓄積してしまい、頭痛が起こります。「アセトアルデヒドは広く知られている有害物質の一つで、刺激性かつ炎症性の物質だ。研究者の間では、アセトアルデヒドの増加は顔が赤くなる原因や、頭痛や吐き気の原因となることが知られている」とDevi氏は説明します。
一方、赤ワインには、白ワインに比べてはるかに多くのケルセチンとケルセチン配糖体が含まれています。そこでDevi氏らは、赤ワインに含まれるフラボノイド (ポリフェノールの一種)、特にケルセチン誘導体 (ケルセチンから派生した化合物) がALDH2の活性に影響を与え、アセトアルデヒドの代謝に関与している可能性について検討しました。

実験では、ケルセチンやケルセチン-グルクロニドなど13種類のフェノール類/フラボノイドに対するミトコンドリアALDH2活性の抑制について、in vitroで評価しました。その結果、抑制効果が最も高いのはケルセチングルクロニド(78.69±1.21%)であり、逆に抑制効果が最も低いのはエピカテキン(0.34±0.12%)であることが明らかになりました。また、ケルセチン誘導体の中でも、ケルセチン-3-グルクロニドはケルセチンよりもはるかに低い濃度でALDH2活性を50%まで低下させることも判明しました(50%阻害濃度はケルセチンで26.5μM、ケルセチン-3-グルクロニドで9.62μM)。

論文の共著者である、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF) 頭痛センターのMorris Levin氏は、「赤ワイン頭痛を起こしやすいタイプの人、特に片頭痛などの一次性頭痛をもともと持っている人では、ごく少量であってもケルセチンを含有するワインを摂取することで頭痛が生じるというのが我々の考えだ」と説明し、「この長年にわたる謎の解明に向かって正しい道を歩み始めたと感じている。次のステップは、こうした頭痛が生じる人を対象に科学的な検証を行うことだ」と述べています。今後はヒトを対象とした小規模な臨床試験を実施し、ケルセチンを多く含む赤ワインと、ほとんど含まない赤ワインの効果を比較する予定だとしています。
論文の上席著者で、カリフォルニア大学デービス校ブドウ栽培・醸造学部名誉教授のAndrew Waterhouse氏は、「ケルセチンはブドウが日光に曝されることで生成されるため、赤ワインに含まれるケルセチンの濃度は、ブドウが収穫前に浴びた日光の量によって劇的に変化する。ナパバレーのカベルネのように、ブドウの房を露出させて栽培するとケルセチンの濃度が高まり、時には4~5倍にまで増加する」と話します。また、赤ワインに含まれるケルセチンの濃度は、ワインの製法によっても変化するといいます。

ただ、今後の臨床試験でケルセチンと頭痛の関連が明らかにされたとしても、なぜ一部の人のみが他の人と比べて赤ワイン頭痛を起こしやすいのかについては依然として不明だと研究グループは説明します。考えられる要因としては、ケルセチンによって阻害されやすい酵素を持っていることや、アセトアルデヒドの蓄積による影響を受けやすいことなどが挙げられるとしています。Waterhouse氏は、「もし、我々の仮説が実証されれば、これらの重要な問題に取り組むための手がかりを得ることになるだろう」と話しています。

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