「AIドクター」が退院患者の再入院リスクを高い精度で予測

「AIドクター」が退院患者の再入院リスクを高い精度で予測

「AIドクター」が退院患者の再入院リスクを高い精度で予測

人工知能 (AI) コンピュータープログラムを使って、電子カルテに記録された医師のメモから患者の死亡リスクや入院期間などを高い精度で予測できることが、新たな研究で示されました。米ニューヨーク大学 (NYU) ランゴン・ヘルス病院では、退院した患者が1か月以内に再入院するかどうかの予測に実際にこのAIプログラムを使っているといいます。NYUデータサイエンスセンターのLavender Jiang氏らによるこの研究の詳細は、「Nature」に6月7日掲載されました。

NYUTronと名付けられたこのAIプログラムは、膨大なデータの学習により得た知識を基に翻訳や文書要約などのさまざまな言語処理タスクを実行する「大規模言語モデル」と呼ばれるものです。NYUTronは、医師が頻繁に記録に残す独創的で個人的なメモを直接読んで理解することができる点が、これまでのAIプログラムと異なります。これまでのAIプログラムで予測精度を上げるためには、データを表にするなど専用に整える必要がありました。
Jiang氏によると、大規模言語モデルは、専用のコンピューターアルゴリズムを用いて、人々がある文脈で特定の用語を使用する確率に基づき、文章中の空欄を埋める最適な単語を予測することができます。そのため、さまざまな言語パターンをモデルに学習させればさせるほど、予測精度も正確になっていきます。

Jiang氏らは、電子カルテの記録内容を加工することなくNYUTronに読み取らせて学習させた上で、学習した内容から患者の健康状態について有用な評価を行うよう訓練を行いました。学習用に用いたデータセットは、2011年1月から2020年5月までの間にNYUランゴン・ヘルス病院で治療を受けた男女38万7,144人の電子カルテで、医師による放射線報告書や患者の経過記録などの臨床記録725万件 (41億語) が含まれていました。なお、これらの臨床記録で医師たちは、関係者間であらかじめ標準化された用語や言い回しを用いておらず、中には個人的な略語や用語を用いたケースさえあったといいます。

モデルの予測能を評価する指標であるROC曲線下面積 (AUC) で退院患者の30日以内の再入院リスクを評価したところ、NYUTronを用いたモデルのAUCは79.9%であり、従来の非大規模言語モデルを用いたモデルのAUCよりも5.36%向上したことが明らかになりました。同様に、入院死亡の予測については、NYUTronを用いたモデルのAUCが94.9%で従来のモデルよりも7.43%の向上、入院期間の予測についてはAUCが78.7%で12.3%の向上が認められました。

Jiang氏は、「これらの結果は、医師が患者のケアを検討する上で、NYUTronのような大規模言語モデルを頼りにできる可能性を示すものだ。NYUTronのようなAIプログラムは、再入院につながる要因やその他の懸念すべき要因について、リアルタイムで医師に警告するため、迅速な対応が可能になる」とNYUのニュースリリースで述べています。その上で、「テクノロジーを活用してこのような基本的な作業を自動化することにより、医師が患者と過ごす時間を増やすことができる」と付け加えています。
一方、論文の上席著者であり、NYUランゴン・ヘルスの神経外科医であるEric Oermann氏は、「これらの結果は、大規模言語モデルによって『スマートホスピタル』の開発が可能なばかりでなく、実現できることを示すものだ。NYUTronは電子カルテから直接情報を読み取るので、予測モデルの構築は容易であり、医療システムへの導入も迅速に行える」と話しています。同氏は、「今後の研究では、請求コードの抽出、感染リスクの予測、処方すべき薬の特定などにおけるモデルの能力についても探っていきたい」と述べているが、その一方で、「NYUTronはあくまで医療従事者のサポートツールであり、個々の患者に合わせた医師の判断に取って代わるものではない」と強調しています。なお、本研究の資金の一部は、米国立衛生研究所(NIH)から提供されました。

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