CAR(キメラ抗原受容体)-T細胞療法と呼ばれる免疫系を強化する治療法は、特定のがん患者を長生きさせるだけでなく、QOL(生活の質)も高めることが、新たな研究で明らかにされました。米マサチューセッツ総合病院(MGH)の腫瘍学者Patrick Connor Johnson氏らが実施したこの研究の詳細は、「Blood Advances」に3月20日掲載されました。
CAR-T細胞療法は、患者自身の血液から免疫細胞のT細胞を取り出し、がんを標的とするように遺伝子を改変した後に、再び患者に戻す治療法です。この治療法の対象となるのは、標準的な治療が奏効しない難治性の白血病やリンパ腫などの血液がんです。CAR-T細胞療法は、血液がん患者の治療に革命を起こしました。進行した血液がん患者でも、この治療法によりがん細胞が一掃され、何年間もがんが再発することなく生存している人もいるくらいです。その一方で、治療後の患者のQOLについての研究報告は限られています。
Johnson氏は、「CAR-T細胞療法は、がんを寛解に導くことができる一方で、約2週間の入院を必要とする集中治療法でもある。患者に重篤な副作用が生じないかを見張っておく必要もある」と説明します。CAR-T細胞療法で最も懸念される副作用は、サイトカイン放出症候群です。これは、患者の体内に戻されたT細胞からサイトカインと呼ばれる生理活性物質が大量に放出されることで、高熱、血圧の急激な低下、呼吸困難などが生じる状態であり、重症化すると命にも関わります。サイトカイン放出症候群以外にも、頭痛、錯乱、平衡感覚障害、会話困難など、神経系に問題が生じることもある〔免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)〕。Johnson氏によると、こうした副作用はたいていの場合、治療開始後10日ほどで現れるといいます。
今回の研究では、CAR-T細胞療法を受けた患者100人を対象に、治療により患者のQOLや身体症状、精神的苦痛がどのように変化するのかを調べました。患者の平均年齢は66歳(23〜90歳)で、男性が63%を占め、疾患はリンパ腫(71%)、多発性骨髄腫(28%)、B細胞性急性リンパ芽球性白血病(1%)でした。
その結果、56%の患者が完全奏効、24%の患者が部分奏効または最良部分奏効を達成しました。全体で76%の患者にサイトカイン放出症候群が、また33%にICANSが生じました。T細胞の輸注から中央値14.5カ月(範囲0.4〜36カ月)の追跡期間中に、38%の患者が死亡しました。患者のQOLスコアの中央値は治療開始から1週間でベースラインより低下したものの(77.9点→70.0点)、1カ月後にはベースラインレベルに回復しました(76.0点)。その後、3カ月後と6カ月後にはスコアはさらに上昇し(同順で83.5点、83.7点)、平均的な米国人のQOLスコアと同等のレベルになっていました。
ただし、多くの患者には、治療から6カ月後でも身体症状と精神的苦痛が残っていました。Johnson氏によると、治療から6カ月後でも、臨床的に重大な不安、抑うつ、PTSDの症状が認められた患者の割合は、それぞれ22%、29%、22%でした。また、身体症状についても、67%の患者が、治療から6カ月が経過しても、痛みや疲労などの軽度から中等度の身体症状を訴えました。
Johnson氏は、「これらの問題が、がん、先行治療、またはCAR-T細胞療法のうちのどれと関連しているのかは不明だ。しかし、それらの”混合”である可能性が高い」との見方を示します。
米メモリアルスローン・ケタリングがんセンターの血液・腫瘍学者であるJae Park氏は、「この研究結果は、われわれの施設の患者が経験することと一致するようだ。入院の必要性、治療関連の副作用、感染症、輸血の必要性などにより、最初の30日間は、一般的に患者のQOLが急激に低下する。しかし、ほとんどの患者はこれらの副作用から回復し、幸いなことに、治療に反応する」と話します。そして、「CAR-T細胞療法に反応を示すなら、通常は、化学療法のような他の治療を見送ることができ、日常生活に戻ることができる」と付け加えています。
一方でPark氏は、「CAR-T細胞療法を受けた患者の多くが、治療後も長期にわたって身体症状と精神的な苦痛を持ち続けていることを認識し、その理由を解明する必要がある」とも述べています。