近年、健康管理における睡眠の重要性が注目を集めるとともに、日本人の睡眠不足の問題が指摘されています。「睡眠負債」という言葉を聞かれたことがある方も多いのではないでしょうか。今回は、適切な睡眠の重要性と日本人の子供の睡眠について、国内外からのレポートをご紹介します。
適切な睡眠時間は認知機能低下のリスクを下げる?
たとえ初期段階のアルツハイマー病患者であっても、適切な睡眠時間を確保することで、加齢に伴う認知機能低下のリスクを下げられる可能性のあることが新たな研究で明らかにされました。睡眠時間は少な過ぎても多過ぎても認知機能低下と関連したということです。米ワシントン大学医学部のDavid Holtzman氏らによるこの研究結果は、「Brain」に2021年10月20日掲載されました。
Holtzman氏らは、同大学のKnight Alzheimer Disease Research Centerを通してアルツハイマー病の試験に参加している人の中から100人(平均年齢75歳)を対象に、中央値で4.5年間追跡し、睡眠と認知機能の変化の関連を調べました。その結果、睡眠時間と認知機能低下との間にはU字型の関係が認められ、脳波計測による睡眠時間が4.5時間未満と6.5時間超の場合では、認知機能テストのスコアが低下していました。一方、睡眠時間が4.5時間~6.5時間だった人では、スコアの低下は認められませんでした。
こうした結果についてHoltzman氏は、「睡眠時間が短い人だけでなく長い人でも認知機能が低下しているというのは、非常に興味深い結果だ。このことは、認知機能低下の鍵を握っているのが、総睡眠時間ではなく睡眠の質である可能性を示唆している」と述べています。
日本の子どもの睡眠負債の現状――2万人超の調査結果
秋田大学大学院医学系研究科精神科の竹島正浩氏らによる日本人の子供たちの睡眠時間についての研究結果が、「Scientific reports」に2021年6月1日掲載されました。この研究では、2万人以上の小中学生の保護者を対象とする全国規模の調査から、日本の子どもたちの睡眠実態が明らかになりました。日本の子どもは睡眠時間が不足している可能性があり、18.3%の子どもが何らかの睡眠障害に該当しました。また、情緒・行動面の問題に睡眠に関する症状や睡眠潜時、中途覚醒時間の延長が関連していたということです。著者らは、「子どもたちに情緒・行動面の問題がある場合、睡眠に関する問題を考慮する必要がある」と述べています。
この研究では、竹島氏らは文部科学省と各地域の教育委員会の協力を得て、北海道から九州の10県にある小学校148校と中学校71校の子どもたちを対象に睡眠の実態調査を行いました。睡眠の状況については小児・児童用簡易睡眠質問票(BCSQ)、情緒・行動面の問題については子どもの強さと困難さ質問票(SDQ)で評価し、Total difficulties scores(TDS)を算出しました。
BCSQでは、18.3%の子どもが何らかの睡眠障害に該当しました。睡眠症状のサブスケールについては起床時の睡眠症状が最多で41.7%、続いて就床時が34.5%、睡眠中が32.9%であり、日中は0.3%でした。SDQでは情緒や行動面の問題は学年が上がるに従い減少し、特に多動性と不注意を示すスコアが成長とともに大きく低下していました。
著者らは本研究が横断研究であり因果関係には言及できないと述べた上で、「日本の多くの子どもたちが睡眠負債や睡眠障害を抱えている可能性があり、睡眠習慣や睡眠障害が情緒・行動面の問題に関連している」と結論付けています。