森や山で、草地などの自然が豊かな場所に行くと、ホッとリラックスし、身体も心も元気になりそう…、そんな気分になった経験はないでしょうか?今回は、自然豊かな環境が健康にもたらす効果を米国とフィンランドの研究からレポートします。
緑豊かな環境が心血管疾患による死亡を減らす?
木々や草地などの緑のある空間が増えると、大気の質が改善され、心血管疾患(CVD)による死亡リスクが低下する可能性があるとする研究結果を、米マイアミ大学ミラー医学部のWilliam Aitken氏らが発表しました。詳細は、米国心臓協会学術集会(AHA Scientific Sessions 2020、11月13〜17日、バーチャル開催)で発表されました。
大気の質は健康に影響を与える主要な環境因子です。そこでAitken氏らは、2014〜2015年の米疾病対策センター(CDC)の報告による米国でのCVDによる死亡率、米国環境保護庁が公表している大気質指数(PM2.5濃度)、および米国国勢調査局が公表している国民の年齢、人種、教育レベル、収入に関するデータを収集。これらのデータを用いて、郡単位で算出した米国の正規化植生指数(NDVI)とCVDによる死亡リスクとの関連を検討しました。
その結果、以下の点が明らかになりました。
・NDVIの値が0.1単位増加する(緑が多い)ごとに、CVDによる死亡者数は成人10万人当たり13.2人減少する。
・大気1m3当たりのPM2.5が1μg増加するごとに、CVDによる死亡者数が成人10万人当たり38.8人増加する。
この結果を受けてAitken氏は、「われわれの研究から、大気の質が良い地域ほど緑が多く、同様に、緑が豊かな地域ほど、CVDによる死亡率が低いことが明らかになった」と述べています。
さらにAitken氏は、「豊かな緑が心血管にもたらす潜在的なベネフィットに鑑みると、健康と生活の質(QOL)の改善に関する検討では、緑化促進をサポートする環境政策についても検討すべきだ」と指摘。その上で、「政策立案者は緑化を推し進めるべきであり、そのためには、誰もが等しく緑地や澄んだ空気、きれいな水へアクセスできるようにしなければならない。それとともに、人々の環境有害物質への曝露を最小限に抑えることも必要だ」と付け加えています。
森の自然を取り込んだ園庭が園児の免疫を改善か
また、フィンランドの研究で、保育園の園庭を、森の土や植物のある自然豊かな環境に変えたところ、園児の炎症レベルが低下し、免疫機能の改善が認められました。フィンランド自然資源研究所のAki Sinkkonen氏らが実施したこの研究の詳細は、「Science Advances」10月14日オンライン版に発表されました。
近代的な生活と免疫機能の関係については、これまで多くの研究が実施され、その結果が報告されています。例えば、農場での生活経験(特に小児期の)がアレルギーリスクの低下に関連することや、近代に入って普及した抗菌作用のある石鹸の使用や加工肉の摂取、抗菌薬の使用などが、身体の細菌叢の多様性を低下させる可能性が示唆されています。そこで、Sinkkonen氏らは、生物多様性を都市の環境に持ち込むことで、子どもたちの細菌叢の多様性が高まり、免疫機能が変化するかどうかを調べる研究を実施しました。
Sinkkonen氏らは、フィンランドの10ヵ所の保育園のうちの4園(介入群)には、砂利が敷かれた園庭に森の土や芝生、草を敷き詰め、植物のプランターや子どもたちがよじ登って遊べるブロック状の泥炭を用意しました。これ以外の6園は対照群としました。このうち3園は“自然志向の園”として、子どもたちを定期的に近隣の森に連れて行く活動を行いました。残る3園は、ほとんど自然のない園庭で通常通りの保育を行いました。解析は、介入群と対照群との間での皮膚細菌叢と腸内細菌叢、および血液中の免疫バイオマーカー(サイトカインレベル)について行われました。
その結果、開始から28日後には、介入群の園児の皮膚において、細菌の多様性が高まっていることが確認された一方、通常の保育園の園児では、全般的に低下していました。また、介入群の園児の腸内細菌叢は、毎日森に出かけていた“自然志向の園”の園児の腸内細菌叢に似ていることも分かりました。多様性を持つ自然環境に子どもを置くことは、子どもの体の細菌叢に多様化をもたらし、免疫機能も改善される可能性のあることが示唆されました。