怒りや過度なストレスは、精神状態だけでなく健康にも望ましくない影響があることは、これまでも指摘されてきました。今回は、攻撃性や怒り、ストレスなどの感情による健康へのリスクについてのレポートをご紹介します。
攻撃性が心筋梗塞の再発リスクを高める?
怒りっぽい態度は、2度目の心筋梗塞を起こすリスクを高める可能性のあることが、「European Journal of Cardiovascular Nursing」2020年9月14日オンライン版に掲載された論文で明らかにされました。
急性冠症候群(ACS)は、冠動脈のプラークが破れて血流が悪くなったり詰まったりすることで生じる病態で、臨床的には、急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死を指します。この研究は、ACSの既往歴を有する患者2,321人を対象として24カ月にわたって追跡し、攻撃性がACSの再発またはACSによる死亡の予測因子であるか否かを検討しました。その結果、攻撃性はACS再発による死亡の独立した予測因子であることが明らかになりました。
この研究論文の筆頭著者である米テネシー大学のTracey Vitori氏は、「攻撃性は性格特性の一つで、皮肉屋、偏屈、怒りっぽい、短気、激しやすいなどがこれに当てはまる。攻撃性は、単発で生じるものではなく、ある人の他者との関わり方を特徴付けるものだ」と説明します。さらにVitori氏は、「攻撃性と心血管疾患との関連は1950年代から指摘されてきたが、その理由は完全には解明されていない。今回の研究により、攻撃性がACS既往者によく見られる特徴であり、予後不良に関連することが示された。」と指摘しています。
Vitori氏は、「心血管疾患患者が健康管理のためにできることはたくさんある。身体的な面では、禁煙、身体活動量の増加、バランスの良い食事を心掛けると良い。今回の研究ではさらに、攻撃的な行動を制御することも重要になる可能性が示された」と述べています。
「叫ぶ」か「黙り込む」か ―夫婦げんかの反応でなりやすい疾患がわかる
夫婦の意見が合わないとき、怒りを表に出す人では心疾患リスクが高まり、感情を押さえ込んで対話を拒否する人では背中の痛みや肩こりなどの筋骨格系の障害につながる可能性があることが、米ノースウェスタン大学(イリノイ州エバンストン)のClaudia Haase氏らの研究で示唆されました。この研究は、「Emotion」オンライン版に2016年5月23日に掲載されました。
研究では、異性婚の夫婦156組に20年以上、5年ごとに研究室において楽しい話題と意見の合わない話題について話し合ってもらい、ビデオに録画しました。行動コーディングの専門家が顔の表情、ボディランゲージ、声のトーンを元に対話を評価し、被験者は特定の健康障害の詳細を尋ねる質問票にも記入しました。その結果、怒りと心血管の関係性が最も強いことが判明しました。「怒りを強く表す」群の被験者の81%は、胸痛や高血圧などの心血管症状を20年間で1回以上経験していましたが、「怒りをあまり表さない」群では約53%でした。一方で、「強く拒否する」夫の約45%では背中の痛み、筋肉痛または肩こりがみられましたが、「あまり拒否しない」夫では23%のみでした。「この知見から、怒りっぽい人は怒りをコントロールする練習が有益ではないかを検討し、対話を拒否しがちな人は湧き出る感情を押し殺さないようにするとよいことが示唆された」と、Haase氏は指摘しています。
過剰なストレスのサイン
日常生活の中で、怒りやストレスを感じずに過ごすことは、とても難しいことですが、長期間にわたりストレスを感じ続けると、精神面や身体面に悪影響が出てくることがあります。FDA 女性の健康対策室(OWH/米国)では、以下のような症状があるときは、過剰なストレスのサインである可能性を示唆しています。
・食欲がない、または食べ過ぎる。
・人生が思い通りにいかないと感じる。
・忘れっぽくなる。
・頭痛がある。
・元気が出ない。
・集中できない。
・仕事を上手くこなせない。
・自尊心がもてない。
・怒りっぽい。
・よく眠れない。
・胃の調子が悪い。
・体に痛みがある。