前回に引き続き、メタボリックシンドロームと生活習慣についてのお話ですが、今回は食生活に注目します。
「日本食、和食が体に良い」といわれていますが、本当なのでしょうか。米国では、1970年代に、がんや心疾患による死亡率が急増し、医療費も年々増加する一方でした。
この状況を憂慮して、その原因究明と対策が検討されました。そして、1977年に米国上院栄養問題特別委員会で、世界各国の食事と健康との関係を調査した結果が報告されました。
その中で、動物性脂肪、動物性たんぱく質を多くとり(いわば肉食が多く)、穀類、野菜、食物繊維の摂取が少ない、当時の米国の一般的食習慣を不適切な食生活習慣と位置づけました。そして、この食生活習慣を改善することが、まず重要であると記されていました。
さらに、先進国が理想とすべき食事の内容は、米を中心として水産物、畜産物、野菜、大豆製品などの多様な副食から構成された日本食であると紹介されました。日本の食生活習慣が、先進国のお手本になったのです。
先の報告では、1960年代の日本の一般的食事内容を挙げ、摂取エネルギーの中で脂肪がしめる割合が低く、炭水化物の比率が高いことを理想的であると紹介したそうです。
その後、いくつかの研究が重ねられ、総摂取エネルギーのうち各栄養成分がしめる適正な比率として、たんぱく質12-13%、脂質20-30%、炭水化物57-68%が提唱されました。
わが国における1985年頃の国民の平均的摂取割合は、これに近いものでした。
しかし、この20年余で食生活習慣の欧米化が加速し、脂質の摂取割合が増加したのです。
農業白書によると、国民一人当たりの米の消費量は1960年に114.9kgであったのが2005年には61.4kgに減り、そして畜産物の消費量は32.0kgから137.0kgへと増加したのです。お手本のはずの日本の食文化が、徐々に崩れてしまいました。
いまやわが国では、糖尿病患者または予備軍が1800万人以上、30-60歳代の男性の約3割が肥満という現状です。政府は2005年7月に食育基本法を制定し、食に関する知識と食を選択する能力を習得し、健全な食生活を送ることを国民に要求しました。
日本人がこれまで当たり前のように食べていた伝統的な食事ですが、今や、「体に良いから和食を食べる」時代になったのです。日本は世界で代表的な長寿国です。これを支えたのが伝統的な和食であり、その特徴として、豆腐や納豆などの大豆製品が日常的に摂取されてきたことが挙げられます。
大豆製品は良質のたんぱく質、植物性脂肪や食物繊維を豊富に含みます。皆さんも、是非とも25年前の食卓を再現してはいかがでしょうか。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
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