この連載では健康食品の位置づけ、利用目的、現状などをお話しましたが、今回が最後になりました。日本は長寿国家であり、女性の平均寿命は世界で第一位です。昨年には100歳以上の高齢者が3万2千人を超え、前年より3900人も増加しました。
この長寿国家を支えたのが食生活です。すなわち、米を主食とし、魚介類が多く、獣肉類や乳類からの脂肪摂取が少ない食事を摂ってきたことが特徴です。しかし、この伝統的な食生活習慣が崩れつつあります。
近年の日本人は、肉製品の摂取量が多く、食物繊維や野菜の摂取量が相対的に減少しました。その結果、血清コレステロール値が上昇してきたのです。ちなみに、血清コレステロール値が上昇すると、心筋梗塞の年齢調整死亡率も上昇することが世界的に知られています。
すなわち、少々前の時代には当たり前だったような食事内容が、実は病気の発症予防に重要なのです。大豆を多く摂ると、骨粗鬆症の予防や発がんリスクの軽減につながります。また、魚介類(特に青身の魚)の摂取は高血圧や高脂血症のリスクを低減させ、その結果、心筋梗塞による死亡率を低下させることが知られています。
残念ながら食生活習慣の欧米化によって、前述のように肥満や生活習慣病患者が増加してきました。そして、患者の増加によって医療費も増加し続けています。この問題を解決するために、本年4月からメタボリック症候群(メタボ)対策、メタボ健診などが行われるようになったのです。食生活習慣の変化は、わが国の社会問題にまで発展しました。
健康を維持するためには、先にご紹介したようなわが国古来の食生活に戻ればいいのです。しかし、さまざまな環境や条件によってすぐには戻れません。したがって、「食事や運動習慣の改善だけで頑張りなさい」と言われることは、皆さんにとって厳しいでしょう。生活習慣の危険因子を減らすために、また、日々の食生活の補助的手段として、健康食品を上手く利用するのがよいと思います。
病気の予防や治療で最も重要なことは、みなさん自身の行動変容にあります。そのためには、多くの情報やツールを利用して、長く安定して健康に配慮できる方法を考え、実践すべきです。無理な計画を立ててすぐに止める、また、それによって心身に支障が出るようでは困ります。そのとき重要なことは、安全性と有効性が科学的に検証されたものを選ぶことです。
滋賀医科大学 教授
一杉 正仁(ひとすぎ まさひと)氏
1994年、東京慈恵会医大卒。川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院修了、同大助手、獨協医科大学法医学講座准教授を経て、現職。国立大学法人滋賀医科大学医学部社会医学講座 法医学部門教授。医師、医学博士。日本法医学会法医認定医。日本法医学会評議員。
専門は血栓症突然死の病態解析、バイオレオロジー、予防医学。国際交通医学会東アジア地区担当理事、日本バイオレオロジー学会理事、日本交通科学会理事、日本医学英語教育学会副理事長などを務める。2010年、International Health Professional of the Year, 2010 受賞。いわゆるエコノミークラス症候群の原因究明、納豆による血栓症予防についての研究で広く知られており、代表著書に「ナットウプロテアーゼ」などがある。
・掲載6 長生きするための血流改善
・掲載5 本当の血液サラサラとは
・掲載4 肥満で困ること
・掲載3 江戸時代の食生活を学ぶ
・掲載2 健康になると交通事故死傷者が減る
・掲載1 こんな時に起きる血栓症
・掲載6 魚や大豆製品を食べましょう
・掲載5 和食でメタボリックシンドロームを予防する
・掲載4 メタボリックシンドロームを予防するために
・掲載3 メタボリックシンドロームから血栓症へ
・掲載1 メタボリックシンドロームが注目された背景
・掲載6 健康食品と上手につきあう
・掲載5 なぜ健康食品が必要か
・掲載4 健康食品に頼る現状
・掲載3 健康食品をめぐる社会経済
・掲載2 健康食品のエビデンス
・掲載1 健康食品とはなにか?
・掲載6 血栓症を防ぐ健康食品
・掲載5 納豆が防ぐ血栓症
・掲載4 食生活の改善と血栓症の予防
・掲載3 旅行者血栓症をご存じですか
・掲載2 恐ろしい血栓症
・掲載1 気になる肥満