脳梗塞、認知症、フレイルがあると健康寿命が短くなるため、認知症の予防には生活習慣病の予防が大切であることが知られています。慢性腎臓病(CKD)は高齢者に多いありふれた病気ですが、糖尿病や高血圧が原因になります。今回は、第157回老年学・老年医学公開講座「腎臓を守って、認知症を予防!」に基づき、3回にわたって慢性腎臓病の観点から脳梗塞や認知症を防いで健康寿命を延ばすことについて考えます。
今回は、田村嘉章氏(東京都健康長寿医療センター 糖尿病・代謝・内分泌内科 専門部長)の講演「糖尿病性腎症と認知症」に基づいてお話します。
糖尿病腎症と認知症
糖尿病合併症は、糖尿病3大合併症の一つに挙げられます。糖尿病合併症は、高血糖の持続により血管障害が生じるものですが、腎症、網膜症、神経障害を古くから3大合併症と呼んでいます。最近、これらの他にも糖尿病には様々な疾患が合併することが分かってきましたが、認知症もその一つです。このように腎症、認知症はいずれも糖尿病合併症と考えられていますが、腎臓病がある人では認知症の頻度も増えていることが分かっていて、ある研究では1.4倍にもリスクが上昇すると報告されています。
腎臓の働きと透析
腎臓は尿をつくる臓器です。尿を作ることには、身体に溜まった老廃物を捨てること、溜まった水分や塩分を捨てることの2つの意味があります。もし腎臓が機能しなくなったら(腎不全)、これらを捨てることができないため、血液透析が必要となります。ただ、透析に至るには長いプロセスがあるため、腎症の進行に早く気づいて適切に対処すれば、透析を遅らせることができます。したがって、症状がなくても腎症の進行度を知る必要がありますが、そのためにもアルブミンとクレアチニンの検査は非常に重要になります。アルブミンは腎症が出現すると少量漏れ出るようになり、症状が進むにつれて少しずつその量が増えていきます。クレアチニンは筋肉から出る老廃物で、通常は尿の中に捨てられるので血液中の濃度は低いのですが、腎症が進行すると尿中に捨てられる量が減ってしまうので、血液中の濃度が上がってきます。症状がなくても尿検査を受けて腎症の有無を知り、適切な対処をすることが透析予防のために非常に重要なのです。
糖尿病性腎症の進み方(典型例)
血圧管理が重要
高血圧は血管を傷つけ腎臓の機能を低下させます。機能の低下した腎臓は塩分の排出ができなくなりさらに血圧が上がるので、悪循環が形成されます。糖尿病性腎症の方では、診察室で130/80 mmHg未満(家庭血圧で125/75 mmHg未満)にすることが推奨されています。ただし、降圧の際には、無理せずゆっくり段階的に下げる必要があります。
食事
上記のように血圧管理が重要ですので、食事では塩分を減らすことが大切になります。なかなか実践は難しいですが、特に塩分含有量の多いものを避ける、醤油などをかけずにちょっとつけるようにするなど、できることから始めてみましょう。また、進行した腎臓病の人にはタンパク質(肉や魚)を控えるべきだと言われています。しかし、高齢者の場合、タンパク質を制限しすぎると筋肉量が減ってしまい、筋肉や運動機能が低下した状態になります。これはサルコペニアやフレイル(要介護一歩手前の体力が落ちた状態)や死亡のリスクを増やすとも指摘されています。そのため、糖尿病だからと言ってカロリーを減らしすぎないように、主治医の先生と相談することが大切です。
なお、進行した腎症の方では血中のカリウムが上昇していることがあり、このような方では果物や生野菜を控えるように注意が必要です。
食事療法
(講習会資料より)
禁煙、運動
タバコは血圧を上げるほか、がん、心臓病・脳卒中の強力な危険因子ですが、腎臓病の発症も増加させます。タバコは百害あって一利なし、今からでもやめる努力をしましょう。
運動は血行を抑止、血糖と血圧を低下させます。また、腎臓だけでなく、他の合併症予防にもつながると考えられます。運動の内容としては、エネルギーを燃やす有酸素運動(ウォーキングなど)と、筋力をつける軽いレジスタンス運動を組み合わせて行うと良いでしょう。ただし、運動を行う際にはいくつかの注意点があります。まず、心臓病など運動に支障がある病気がないかチェックしましょう。また、腎不全では骨密度が低下し、骨折しやすい人が多いので転倒しないように注意が必要です。
生活習慣の見直し
(講習会資料より)
腎症予防と認知症予防の共通点
これまでにご説明した腎症予防のための注意点の多くは、認知症予防にもつながります。これらを実践すると腎症の進行とともに認知症の進行も予防できる可能性があるということです。