健康には「適度な運動」が効果的、という話をよく聞きますが、適度な運動によって筋肉を鍛えることはなぜ大切なのでしょうか。2019年5月29日に練馬文化センターにおいて、地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター主催の「第154回 老年学・老年医学公開講座 今、筋肉が熱い!?~あなたの知らない筋肉の世界」が開催されました。本講演に基づいて、3回にわたって筋肉についてお話します。
知っておきたい筋肉のこと:基礎から疾患まで
まず、萬谷博氏(東京都健康長寿医療センター研究所 老化機構研究チーム 研究副部長)が、「知っておきたい筋肉のこと:基礎から疾患まで」と題して講演しました。サルコペニア(加齢による骨格筋量と筋力の低下)という言葉が取り上げられる機会が増え、筋肉量を維持することが健康にとても大事であるということが、広く認知されるようになってきました。しかし、そもそも、筋肉とはどんな組織なのでしょうか。
筋肉とは
筋肉は、その動きと働きから、以下のように骨格筋、心筋、平滑筋の3種類に分けられます。
骨格筋の働き
筋肉というと、まず運動が思いつきますが、筋肉は運動以外にも以下のような様々な重要な働きを担っています。以下のように骨格筋の働きについて、ご紹介します。
① 運動:体を動かす、支える、呼吸
手足を動かすだけではなく、立っているときや座っているときに姿勢を維持します。
② 保護:血管や臓器を守る
骨を包むように体の表面近くに存在し、内臓や太い血管を保護します。
③ ポンプ:筋ポンプ作用・第二の心臓
細い動脈や静脈では、筋肉の収縮によって血管が圧迫され、血流を発生させています。
④ 熱産生:体温の維持・基礎代謝
寒い時や、風邪をひいたときに震えるのは、免疫機能を高めるために体温を上昇させる筋肉の働きによるものです。筋肉量が少ないと体温を上昇させる能力が弱くなり、寒さや感染症に対する抵抗力も弱くなります。また、発汗によって体温を下げることにも寄与しています。
⑤ エネルギー貯蔵:グリコーゲン、タンパク質
短距離のような急な運動(無酸素運動)に対応するため、エネルギーに変換されやすいグルコースとクレアチンリン酸を貯蔵しています。
⑥ 貯水
重量当たりの水分含有量は、脂肪組織では10~20%程度であるのに対し、筋肉組織では約70~80%になります。体水分量が減少すると、体温調節が難しくなり、脱水症状や熱中症になりやすくなります。また、唾液の分泌量が低下するため、齲歯(うし)の原因になります。
筋肉の量は、QOL(生活の質)に非常に重要です。加齢や運動量の低下によって筋肉が減ると、いろいろな臓器に影響して、結果的に全身の機能低下につながります。ここでご紹しただけでなく、脳機能やホルモンとの関係など、たくさんの働きがあります。適度な運動や筋トレで、体も心も元気に過ごしましょう。