「ちょっと聞こえづらい」「人から話し声が大きいと言われた」、という経験はないでしょうか。「難聴」というと特別な病気なように感じますが、年齢に伴って聴力が衰える「難聴」は自然現象で、誰にでも起こり得ます。今回は2019年4月16日に板橋区立文化会館で実施された講演「音が聞こえづらいと思ったら―耳寄りな耳の話―」(老化脳神経科学研究チーム 柳井修一氏)に基づいて、難聴の種類と原因、聞こえづらい時に対処法についてお話します。
難聴の種類
難聴には、伝音難聴と感音難聴の2種類があり、それぞれ「聞こえにくさ」が異なります。
- 伝音難聴
外耳から中耳にかけての音の通り道の障害のために大脳に伝わる情報量が減少し、聞こえづらくなるものです。中耳炎や鼓膜損傷などが原因で、一方が悪くなるものの、片方は正常なことが多いと言われます。
- 感音難聴
内耳炎、メニエール病、有毛細胞(内耳の「蝸牛」にあり、音の振動を変換し、神経から脳へと伝える役割を果たす細胞)の劣化によって発生し、高音から聞こえづらくなります。
聴力を保つ
内耳には「蝸牛」という器官があり、その内側には「有毛細胞」があります。この有毛細胞が、音の振動を変換し、神経から脳へと伝わることによって音が聞こえます。ところが、有毛細胞は加齢とともに劣化し、音を伝える能力は次第に衰えます。そして、有毛細胞は再生しないため、予防が非常に重要です。そのためには、以下の事を心がけることが大切です。
- 大きな音はできるだけ避ける
- イヤホンの音量を上げすぎない
- 騒音が大きい場所では耳栓をする
- 大きい音を聞いたら、静かなところで耳を休ませる
耳の強さには個人差があります。自分自身が大きな音で頭痛などを感じる場合は、耳に大きな負担がかかっているものと考えられます。そのような時は、なるべく耳を休めるように心掛け、聴力を低下させないように気をつけましょう。
「聞こえづらい時の対処法」は?
聞こえづらいことは、それ自体も生活に大きな影響を及ぼしますが、認知症などを引き起こす場合もあります。したがって、難聴を予防することは、認知症の予防にもなると言えます。そのため、聞き返しが多くなる、話し声が大きいとよく言われる、高音(体温計の電子音や虫・鳥の声)が聞き取りにくい、耳鳴りがする、テレビ(ニュースではなくドラマ)の声が聞き取りにくい、等の症状が気になる場合は、まず耳鼻科を受診するように柳井氏は勧めています。聞こえにくいからすぐに補聴器を購入する、のではなくまず耳鼻科で耳の状態をチェックし、適切な処置と治療を受けることが大切です。
耳掃除をしてはいけない
また、「耳掃除はしてはいけない」という話を聞いたことはありませんか?最近の研究で、耳垢は耳の入り口から1.5cm程度の場所にしか存在せず、しかも適度に耳の入り口を湿らせてホコリや塵の侵入を防ぐ役割を果たしています。耳掃除をすることによって、耳垢を奥に押しやってしまうだけでなく、外耳道等を傷つけてしまう可能性があります。傷口に耳垢が付くと、そこから細菌感染し、真珠腫性中耳炎などを引き起こす場合があります。真珠腫性中耳炎は、放置すると顔面麻痺や難聴など様々な病気を引き起こす危険な病気です。米国では、すでに市販の綿棒のパッケージに「綿棒は耳に入れてはいけない」と注意書きがあることが一般的となっています。大体の人は耳掃除は不要で、必要な場合は耳鼻科に行くようにしましょう。
耳は、様々な情報を取り入れる大切な器官です。無理な負担はかけず、疲れたら休ませ、気になる症状がある場合は耳鼻科を受診し、聴力を保つことができるように心掛けましょう。