健康豆知識

健康の温故知新

掲載91 歯なしにならないおはなし―これから歯を失わないためにできること―

「いつまでも若々しく健康に、いつまでも美味しいものを自分の歯で食べたい―」これは誰もが願うことでしょう。歯を失って総入れ歯になると、よく噛めない、食べたものが美味しく感じにくいだけでなく、顔の形が変わって老けた印象になってしまうことも多くあります。2017年7月31日に東京衛生病院において「歯なしにならないお話」と題して、斎藤誠氏(歯科医師)が講演しました。

咀嚼とは

咀嚼とは、一般的に「摂取した食物を歯で噛み、粉砕すること」ですが、よく嚙むことにはそれだけでなく様々な効果があると斎藤氏は指摘します。

① ダイエット効果

よく嚙むことによって、消化・分解しやすくなります。また、よく嚙むと早く満腹中枢が刺激されて、食べる量をコントロールすることができます。

② 視力低下予防

目の中でレンズにあたる「水晶体」を調節する働きをしているのは、「毛様体筋」という筋肉で、この毛様体筋の筋力低下は、視力低下の要因の一つと考えられています。よく嚙むと毛様体の筋力が増強され、視力の低下の予防になると期待されています。

③ 虫歯を予防

よく嚙むことによって唾液の分泌が促進されますが、唾液には口腔内の細菌や歯の汚れを洗い流したり、再石灰化作用など、むし菌から歯を守るいろいろな作用があります。よく嚙むことは、虫歯の予防にも大切です。

④ がん予防

よく嚙むことは、消化器官の負担を軽減してがんの予防にもつながります。

また、斎藤氏は奥歯の大切さも指摘しています。第一大臼歯が一本なくなると咀嚼効率が40%低下します。そのような場合、入れ歯やブリッジで補う治療をすることが一般的ですが、この場合、歯磨きが難しくなり、隣の歯が虫歯や歯周病になる可能性が高くなってしまいます。自分の歯をケアして大切にし、歯を失わないように心掛けることが大切です。

よく嚙むとは

「よく嚙む」というと、「30回嚙みなさい」をいう言葉をよく耳にしますが、これは本当なのでしょうか?例えばナッツは30回では嚙み足りませんし、逆にお茶漬けを30回嚙むことは難しいでしょう。このように、実際には全てを等しく30回嚙むことは難しいと考えられます。嚙むことの目的は、「食物を飲み込みやすい大きさに砕く」「だ液と混ぜて消化しやすくする」ことが目的ですから、この目的を果たすことができるのであれば、特に30回にこだわる必要はないと斎藤氏は述べています。むしろ、嚙みごたえのある食材を積極的に食事にとりいれ、「平均すると30回くらい嚙む」ことを目安にするとよいでしょう。特に歳を重ねると嚥下機能が低下するため、よく嚙むことによって消化器官への負担を減らすことはとても大切です。

8020運動

「8020運動」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは「80歳になっても自分の歯を20本以上残そう」という運動です。運動開始時(1989年)の成率は7%程度でしたが、平成28年度には51.2%にまで上昇しました。このことには、①歯磨きの重要性が周知されるようになってきたこと②フッ素入りの歯磨き粉の普及③歯の定期検診受診者の増加などが挙げられるでしょう。また、虫歯の予防のためには間食を減らすことも大切です。糖の含まれるものは食事の間にあまり摂らない、間食の時間を決めてダラダラ食べることを避けるように心掛けましょう。フッ素入りの歯磨き粉を活用して歯の表面を強くすることも有効です。

歯の手入れ

歯を失う原因の42%が歯周病、32%が虫歯と言われます。虫歯は日常のケアで予防することができますが、歯周病は歯磨きだけでは予防をすることが難しいと考えられます。歯周病は、歯についたプラークが歯槽骨をとかし、歯がぐらついてしまう病気です。歯周病を防ぐためには定期的に歯科医院でプラークを除去してもらうことが必要です。虫歯の早期発見にも定期検診は大切ですので、定期的に通院し、定期検診を受けてプラークを除去してもらうようにしましょう。また、歯周病の予防には、歯ブラシを歯茎に向けて45℃傾けて歯を磨くバス法も効果的でしょう。

歯をしっかり手入れして、いつまでも若々しく、自分の歯で元気においしくものを食べられるように心掛けたいですね。

TOP