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掲載87 胃がん予防について―ピロリ菌感染を中心に―

日本人と胃がん

日本では高齢化とともに癌の罹患率は上昇を続け、日本人の2人に1人が癌になり、3人に1人が癌でなくなると言われています。その中でも胃癌は罹患率が高く、日本では大腸癌に次いで2番目に罹患数が多い癌となっています。それでは、胃癌を引き起こす主な原因は何でしょうか。また、日常生活の中で胃癌を防ぐためにはどのようなことを心掛ければよいのでしょうか。2017年3月24日(金)に成城ホールにおいて、「胃がん予防について―ピロリ菌感染を中心に―」と題して新百合ヶ丘総合病院の市民講座が開催され、袴田拓先生(予防医学センター・消化器内科部門部長)が講演しました。

胃癌のリスク要因として、①塩分のとり過ぎ、②喫煙、③大量飲酒、④ヘリコバクターピロリ菌が挙げられると袴田氏は指摘します。地域別にみると、胃癌は世界の中でも東アジアで多く見られ、特に日本では罹患率の高い病気となっています。日本国内の県別で比較すると、東北、北陸、日本海岸に多く見られ、秋田、山形、新潟県では九州/沖縄の3倍の罹患率であることから、塩分のとりすぎが胃がんに与える影響が大きいと考えられます。また、喫煙についても喫煙者は胃癌の罹患率が非喫煙者の1.6倍であることが明らかになっています。胃癌を防ぐためには塩分のとり過ぎに注意し、喫煙を避けることが大切であると言えるでしょう。

胃癌とピロリ菌

胃癌の原因となるピロリ菌はウレアーゼと呼ばれる酵素を生成してアンモニアを発生させ、胃粘膜を傷つけます。その結果、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍を引き起こし、胃癌に至ることも少なくありません。ピロリ菌は世界中で保菌者が発見されており、特に発展途上国では感染率が高く、先進国では感染率が低い傾向があります。これはピロリ菌が食べ物や飲み物から経口感染しやすいためであり、上下水道の普及率が低かったり、衛生状態の悪いところでは菌が繁殖しやすく感染者が多いと言われています。日本では、まだ上下水道が普及していなかった世代で感染率が高く、60歳以上の60%近くが保菌していると考えられていますが、その後、衛生環境の改善により若年層の間での感染率は著しく低下しています。

ピロリ菌の除菌療法

ピロリ菌の保菌については内視鏡を使って採取した胃の組織を用いた迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法、そして内視鏡を使用しない抗体測定、尿素呼気試験、便中抗原測定の方法で調べることができます。薬で胃潰瘍や十二指腸潰瘍を治療しても再発を繰り返す場合は、ピロリ菌の検査を受け、ピロリ菌がいる場合は抗菌剤などを服用するピロリ菌の除菌療法が勧められます。除菌療法は2000年以降に保険適用となっていますが、この方法によって80%近くが除菌に成功していると言われています。ピロリ菌を除菌することによって慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の再発が抑制されます。

胃癌の予防

また、ピロリ菌の除菌療法を受けることによって、新しい胃癌を発症する確率を減らすことができ、さらに炎症が治まることから胃の病気が発見されやすくなると袴田氏は指摘しています。保菌が疑われる場合は、胃癌を発症する前に除菌療法を受けることが望ましいでしょう。以下のような場合は、保菌をしている可能性があるため、注意が必要です。

①家族に胃がんの人がいる(経口感染などによって保菌している可能性があるため)

②子供時代に井戸水を飲んでいた

③胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍を経験している

④いつも胃の調子が悪い

また、胃液中のビタミンCはピロリ菌感染者では減少していることから、日頃から野菜、果物類を十分に食べてビタミンCを摂取することも予防のためには有効でしょう。また、近年ではヨーグルトを食べることもある程度効果があるという指摘もあります。前述のようにお酒やたばこ、塩分のとり過ぎを避けることも大切です。日常の生活を見直しつつ、気になる症状があるようであれば、早目に病院で相談するように心掛けましょう。

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