思春期は、こどもの立場からおとなに転換する、他の動物にはない人間特有の激動期です。しかし近年、激変する環境の中で多くの誘惑や刺激、ストレスにさらされ、こころや身体に健康を抱える若者が少なくありません。今回は、様々な観点から「思春期・青年期」について考えます。
平成28年12月9日(金)に、日経ホールにおいて「思春期・青年期のこころの健康と成長を支えるもの」と題して東京都医学総合研究所の都民講座が実施されました。講演の中で、長谷川眞理子氏(総合研究大学院大学)は、思春期は「育てられる」側から「育てる側」に転換する重要な時期で、複雑な社会的・経済的スキルを身に付け、大人の暮らしへの準備をする「ヒト」に特有の成長のスパートであると述べています。
そして、西田淳志氏(東京都医学総合研究所)は、この複雑で重要な時期における若者には「こころの健康」を支える周囲の助けが必要だと述べています。3000人の子供たちを追跡研究した結果、OECDに加盟している先進国の15歳の若者の中で「寂しい」と感じている若者の比率が、日本は最も高いことが明らかになりました。また、先進主要7か国の若年層(15~34歳)の死亡理由において、他国では「事故死」が1位を占める中で、日本だけが「自殺」が1位を占めていることも、現在の若者を取り巻く環境の問題の深刻さを示していると言えるでしょう。この追跡調査において若者の幸福感とそれを支えるものとの相関関係を調べたところ、「他者援助(他の人を助けたい)」「援助希求(困ったときに相談できる人がいる)」が高いほど「幸福感」も高いことが明らかになりました。その反面、「幸福感」は「自己制御力」「IQ」とは相関関係にありませんでした。このことから、現代社会における子供の心の健康政策には、これまでの「自己努力」「自己責任」を強調する教育を見直し、「こころの幸せ」(精神的な豊かさ)を増進する教育への転換が必要だとも指摘されました。若者はさまざまな精神的困難に遭遇しますが、その中で、精神的な危機からの回復を支えるものが必要です。思春期は、周囲の人々に助けを求め、支えられながら問題を解決することの大切さを学ぶ重要な時期であり、それを育む環境が大切であると西田氏は述べています。
また、新井誠氏(東京都医学総合研究所)は、思春期のこころの健康について、糖化ストレスのコントロールの観点から講演しました。新井氏は、糖化ストレスが統合失調症に関与している可能性を指摘していますが、AGEs(糖化ストレスの後期物質)が高い統合失調症の患者は、再入院する場合が多いことから、脳の健康を支えるためには糖化ストレスをコントロールすることが必要だと考えられます。ただ、特に思春期は、脳領域間のネットワークを強化・増強する大切な時期であり、そのためには豊かな経験と十分な栄養が必要です。様々なものをバランスよく食べ、豊かな食生活によって、適切な量の栄養を摂取することも思春期の「こころの健康」を支えるために必要だと言えるでしょう。
「子供から大人へ」転換する大切なライフステージにおいて、若者の「こころの健康」を支えるために、それを育む環境、経験、栄養など様々な側面から若者を支える環境が望まれます。