近年、認知症は増加傾向にあり、社会的にも大きな関心となっています。認知症は何らかの原因で脳の神経細胞がダメージを受けることによって発症すると言われていますが、その予防のためには、どのようなことを心掛けるとよいのでしょうか。
2016年9月30日に佼成病院健康講座において、「認知症とその予防について」と題して中野 正寛氏(佼成病院メンタルヘルス科 部長)が講演しました。認知症の発症には、脳内のアミロイドβの蓄積が関係しているため、アミロイドβの除去を促進し、産生を抑制することが有効であると考えられます。そのためには、具体的にどのようにすると良いのでしょうか。
適切な睡眠
アミロイドβは、眠っている間に分解されます。また、起きている間の記憶は眠っている間に固定されることから、十分な睡眠をとることはとても大切です。加齢とともに睡眠が短くなっている場合は、30分程度の昼寝で補うと良いでしょう。ただし、あまり長い昼寝や睡眠薬の安易な使用は避けましょう。
運動を習慣づける
適度な運動を継続することによって、アミロイドβの分解能力を高めると同時に、脳を鍛えることもできます。また、運動することによって、海馬の神経の増殖、容量の増加も期待できます。
食生活を整える
三回の食事をしっかりとり、低栄養を避けることは、とても大切です。主食をやや減らし、おかずを多めにしてバランスの良い食事を心掛けましょう。特に野菜や果物をしっかり食べ、魚(特に青背の魚)を多めに食べると良いでしょう。また、歯が20本以上の人は、20本未満の人よりも認知症になりにくいという統計もあります。必要であれば入れ歯も活用し、よく噛んで食べ、食べた後の歯磨きも忘れないようにしましょう。
生活習慣病を防ぐ
糖尿病、高血圧、脂質異常などになると、アミロイドβを壊す能力が落ちます。また、血液循環が悪くなると脳に必要な栄養が行き渡らなくなるため、生活習慣病を防ぎ、罹っていることを発見したら早期に治療しましょう。
情報をしっかりとらえる
視力・聴力の低下を防ぐことによって、いろいろな情報が入ってきて、会話を通じたコミュニケーションが可能になります。社会的接触やコミュニケーションを大切にし、家の中にこもらずにいろいろな人と付き合い、家の中でも楽しく家族と会話するようにしましょう。対人交流で生じる喜怒哀楽が、脳の神経細胞を強化します。聴力の低下が見られたら、補聴器も活用しましょう。
日常生活の中で
①エピソード記憶を鍛える
以前に体験した出来事を思い出して、エピソード記憶を鍛えましょう。具体的には昨日や一昨日の日記をつける、昔の出来事を友人や同年代の方々などと話すことも効果的です。
②注意分割機能を鍛える
複数のことに同時に注意を払い、注意を切り替えて注意分割機能を鍛えましょう。当然のことながら安全に注意を払った上で、音楽を聴きながら家事をする、右手と左手で違うことをする、声を出しながら体を動かすこともよいでしょう。
③計画力を鍛える
新しいことをする手順を考えて実行し、計画力を鍛えましょう。旅行の計画を立てて実際に行ってみる、献立を考えて料理をする、などもお勧めできます。
また、認知症の二次予防に有効な方法として、早期発見と早期介入が挙げられます。平成24年には認知症患者は462万人、軽度認知障害患者は約400万人とされています。軽度認知障害は日常生活に支障はないため放置されがちですが、そのままだと50%が5年以内に認知症に進行すると言われています。しかし、運動・食事などの生活習慣指導によってある程度進行の抑制が可能であるとも指摘されています。同じ話や同じことを繰り返す、今日の日時がよくわからない、物事を億劫に感じる、趣味に興味が持てなくなった等の症状がみられたら、早目に医療機関に相談しましょう。地方自治体で、「ものわすれ相談」等を設置している場合もあります。
三次予防として、認知症になった場合の予防としては、認知症になっても暮らしやすい環境づくりの大切さが指摘されます。デイケアやデイサービス、認知症カフェを活用したり、地域における活動に積極的に参加して対人交流や運動などを充実させることはとても大切であると言えるでしょう。