人口の高齢化が進む中、医療費の抑制や健康寿命の延伸のために、適度な運動が推奨されています。今回は加齢に伴う筋力の低下から起こるロコモ(運動器症候群)の防ぎ方についてご紹介します。
ウォーキング人口の増加とともに故障者も増加
メタボリックシンドロームのリスクが広く知られるようになり、特に高齢者の間でウォーキングをはじめる人が増えています。しかし、これまで運動していなかった人が急にウォーキングを始めることで、体を痛めるなどの問題も増えているようです。
2015年7月28~30日、東京ビッグサイトで、「第4回スポルテック2015」が開催されました。同展示会のセミナーで、「ロコモを防ぐ歩き方」と題して、土井 龍雄氏(貴島会ダイナミックスポーツ医学研究所)が講演しました。ウォーキングは推奨すべき健康習慣です。しかし、「正しい歩き方を知ること、身につけること、そして正しく歩くための体づくり」を先に行わなければ、故障する確率が高いと土井氏は指摘します。
ダイエット目的で推奨の歩き方はパワーウォーキング
ロコモ(ロコモティブシンドローム:運動器症候群)とは、加齢に伴う筋力の低下や関節や脊椎の病気、あるいは骨粗鬆症などにより運動器の機能が衰え、要介護や寝たきりになるリスクの高い状態のことをいいます。現在、国内のロコモ人口は予備軍も含めて4,700万人を超えると言われています。ロコモあるいはロコモの疑いがある人は、続けて2km以上歩けない、片脚立ちがほとんどできない、歩く速度が遅いといった特徴がみられます。一般的にダイエット目的で推奨される歩き方はパワーウォーキングといって、背筋を十分に伸ばし、腕を大きく降り、勢い良く前進する歩き方です。
しかし、この歩き方は誰にでもできるわけではなく、パワーウォーキングを行うためには十分な脚力や関節の可動域が必要になります。じっと立っているだけでも、足には体重と同じ負荷(重力)がかかりますが、歩くとさらに加速度が加わり、足には体重以上の負荷がかかります。そのため肥満が進んでいる人、関節痛や筋力低下が始まっている人が突然パワーウォーキングを行うと、逆に膝や腰を傷める危険性が高くなります。
歩き方を間違えると、ロコモになる恐れも
理想のウォーキングとは、歩行速度が早いのに膝関節や股関節にかかる負担が少ない、つまりより滑らかな歩きです。歩き方を知らない人や、すでに肥満気味の人がむやみやたらに歩くのは、非常に故障のリスクが高いといえます。歩き方を間違うと、ロコモにもなりかねません。
ではどのような歩き方が望ましいのでしょうか。まず歩幅ですが、歩幅を無理に広げると床反力は高くなります。つまり関節(膝関節、股関節)への衝撃が強くなります。しかしあまりに歩幅が狭いとつまずきやすくなり、転倒の危険性が高くなります。ちょうど良い歩幅とは、骨盤が前後・左右にぐらつかず、地面に対して安定して平行を保てる歩幅です。この歩幅はトレーニング(自然なウォーキング)を続けることで、自然にロングスタンスに変わっていきます。もちろん歩幅が自然に広がる頃には、関節痛が自然に無くなっていたり、関節の柔軟性が高まっているのが理想です。骨盤をぐらつかせないために、歩幅だけでなく上下動を少なくする意識も必要です。着地の際、足先だけ、かかとだけといった歩き方ではなく、土踏まずを除く足裏全体で地面を柔らかくキャッチする感覚が必要です。
またモデルのように脚をクロスして歩くのは厳禁です。足と足の間は4~5㎝程度開いていた方が、左右の骨盤が安定して直進できます。最も気をつけなければならないのが膝とつま先の向き。例えばつま先が外に向いているのに膝が内側にねじれていたりその逆であったりすると、すぐに膝か股関節あるいは腰を痛めてしまいます。ロコモやメタボの予防、健康長寿の実現のためにウォーキングは手軽にできますが、始める前に、一度自分の歩き方を見直してみる必要がありそうです。