健康豆知識

健康の温故知新

掲載66 「雑食」が人類を進化させた

「偏食」が体によくないことは明らかですが、脳にもそれは影響するといわれます。今回は「雑食」と人類の進化の関係についてご紹介します。

ネアンデルタール人は極端な「偏食」で滅んだ 

2015年5月16日(土)、パシフィコ横浜で「第12回アジア栄養学会議・市民公開講座」が開催され、神奈川県立保健福祉大学学長の中村丁次氏が「健康寿命の延伸と栄養・食事」と題して講演しました。この中で特に興味深かったのが、人類の進化は「雑食」と大いに関係があったという話です。人類は猿から進化したといわれますが、人間になれる可能性のあった猿は27種類いたといわれます。しかしそのうちの1種、つまり我々の祖先であるホモサピエンスだけが今日まで生き延び、残りの26種はすべて絶滅してしまいました。ホモサピエンスと同様、生き残る可能性の高かったのがネアンデルタール人です。ネアンデルタール人はアフリカからいち早くヨーロッパへ旅立つなど、ホモサピエンスの最大のライバルでした。

また、体のサイズや腕力もネアンデルタール人のほうがホモサピエンスより圧倒的に勝っていました。現在の中東地域でネアンデルタール人とホモサピエンスは何度も衝突していますが、そのたびに勝利をおさめたのもネアンデルタール人でした。しかし、ネアンデルタール人は最終的には絶滅してしまいます。その最大の原因として考えられているのが、ネアンデルタール人の極端な「偏食」です。急激な気候の変化などが生じると食べるものがありませんでした。

ホモサピエンス、「雑食」で脳も進化した 

一方、ホモサピエンスは現代人と同様、非常に食いしん坊で「雑食」だったそうです。どんな食べ物も摂ることができ、あらゆる地域に棲み、繁殖し、そして農耕までも始めるようになりました。しかし「雑食」で生きることを選択したということは、同時に「一つの食品を完全食品とする」ことを捨てたことを意味します。

ホモサピエンスが「雑食」を選んだ瞬間に、我々人類は「栄養を考える」ということを宿命づけられたといえます。ホモサピエンスは「脳」を驚くほど進化させましたが、「雑食」でなければ、人間の体も脳もここまで進化することはなかったと中村氏は述べています。

18世紀頃、「栄養学」がヨーロッパに登場 

この「雑食」の過程で、急性毒性のある食材は次々に排除されていきます。食の歴史とともに人類は進化を遂げますが、その途上で、栄養のことをより深く考える「栄養学」が18世紀頃フランスに誕生します。しかし、当時は「食べ物が命の源」という考えは許されず、そのような主張をすると宗教裁判にかけられて処刑されました。そのため、フランスでは長い間「栄養学」が発展しなかったという歴史があります。

その後、1891年にドイツでたんぱく質、炭水化物、脂質の3大栄養素が発見され、さらにその後、日本人によりビタミンが発見されることになります。栄養学の中で、食品ごとに「栄養素」が含まれること、そしてそれぞれ役割が異なること、これらを過不足なく摂取するには「知識」や「工夫(調理)」が必要であることが明らかになったのは、人類の歴史から見ると比較的最近のことであったと中村氏は指摘します。

「塩、砂糖、油」の長期過剰摂取は体に毒 

これまでは主に栄養素の役割、カロリー、急性毒性のある排除すべき食品が挙げられてきましたが、近年は「慢性毒性のあるもの」についても問題視されるようになってきています。それが「塩、砂糖、油」です。これらは栄養学的に必要不可欠である一方で、長期的に過剰摂取すると健康を害します。

日本人の健康寿命と平均寿命には約10年の差があることが知られています。この差を短くして、最後の瞬間まで自立して生活できるレベルの健康を保つことが目標とされていますが、そのための新しい健康指標が生まれています。それは「30~60歳までは塩、砂糖、油の過剰摂取による肥満や生活習慣病に留意」し、「60歳以上は低栄養による脆弱状態を予防する」ということです。およそ60歳頃を目安に必要な栄養のギアチェンジを行う必要があると考えられます。

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