以前このコーナーで「適量の飲酒による健康効果」を紹介しましたが、飲酒も度を越すとさまざまな疾患の原因となります。今回は、アルコール依存症への対処法をご紹介します。
飲酒による損失、年間4兆円以上
適量の飲酒は、ストレス解消やコミュニケーションの円滑化に役立ちます。さらに、血流を促すことから、心筋梗塞など虚血性疾患のリスクを低減させる効果もあります。しかしながら、過度の飲酒はさまざまな疾患や問題を引き起こす原因となります。日本では年間で3万5千人がアルコールで命を落とすなど、飲酒による損失コストは年間4兆円を超えるといわれています。
2014年2月26日に、都民講座「お酒と心の健康~依存のリスクに気をつけて」が開催されました。この中で、東京都医学総合研究所の池田和隆氏が飲酒の弊害について講演しました。アルコールが原因で引き起こされる様々な問題で、最も危険なものが飲酒運転による事故です。また、家庭内暴力やアルコールハラスメントといった問題もあります。近年では、過度の飲酒によるうつ病や自殺、認知機能障害、睡眠障害など精神疾患との関連も指摘されています。
適量の飲酒の目安、「Jカーブ」曲線の底辺
適量の飲酒は身体に良いと言われますが、度が過ぎるとさまざまなリスクが高まります。飲酒量と健康影響との相関を表す「Jカーブ」といわれる曲線の底辺部分が適量の目安であると考えられています。Jカーブが右肩上がりになる辺りから、食道がん、肝臓がん、大腸がん、肝疾患、潰瘍、糖尿病、高血圧、脳血管疾患等の様々なリスクが増加します。適量の目安は、男性は1日平均40g(日本酒で2合、ビール500ml缶で2本、ワインでグラス4杯、焼酎25度で200ml)、女性はその半分の1日平均20gです。ただし、アルコールの許容量や分解速度は体質や性別、体型によって異なります。一般的に、女性や(男性女性とも)小柄な人はアルコールの分解速度が遅いことが分かっています。
認知症などのリスクを軽減、一方でアルコール依存症のリスク
近年社会問題となっている認知症ですが、少量の飲酒であれば認知症の発症リスクが低減することが明らかになっています。しかし、多量の飲酒は逆にリスクを上げることも分かっており、適量の飲酒を実践するのは難しいと言えるでしょう。
アルコールには依存症の危険性があります。依存性の高い物質としては、覚せい剤や麻薬、タバコなどが挙げられますが、睡眠薬やアルコール、カフェインなども依存性が高く、いずれも脳内でドーパミン神経が異常に活性化するため、やめたくてもやめられないという状態になります。一旦、アルコール依存症になってしまうと改善するのは非常に困難です。効果的な薬物治療はなく、認知行動療法や断酒会への参加など心理療法や精神療法で根気よく改善していくしか方法がありません。
アルコール依存症、脳内のGIRKチャネルが開きっぱなしに
アルコール依存症の場合、脳内で依存性物質のシグナル伝達を担うGIRKチャネルという部位が開いたままの状態になることが分かっています。このことから、GIRKチャネルが開かないような薬剤の開発がアルコール依存症の改善に繋がるのではないかと考えられています。現在、マウス実験でGIRKチャネルを阻害する薬剤の研究が進められていますが、薬の実用化についてはまだ時間がかかりそうです。 アルコール依存症を防ぐ方法として、池田氏は次のようなことを薦めています。
1、飲酒量の上限をきめる 2、1週間に2日は飲酒を避ける 3、飲む前に料理を食べる 4、アルコール度数の低いお酒を選ぶ 5、ゆっくり飲む 6、二次会は避ける 7、お酒を飲み過ぎてしまう相手とは飲まない 8、周囲にお酒を控えていることを宣言する
アルコール依存症に陥らないように、適度な距離を保ちながらお酒を楽しむことが大切です。