2013年8月11日(日)、日本科学未来館で「免疫ふしぎ未来2013」が開催されました。この中から免疫についての最新研究をご紹介いたします。
難治性疾患の4分の1が免疫に関わるもの
免疫は私たちの体を病気や感染症から守ってくれる強い味方です。しかし、その一方で時に私たちの敵になることがあります。「免疫ふしぎ未来2013」で、「免疫が病気をひきおこす理由~敵でも味方でもある免疫」と題し、渋谷 彰氏(筑波大学医学医療系 免疫学教室)が免疫の特異性を解説しました。
現在、厚生労働省の指定する「難治性疾患(いわゆる難病指定)」は135疾患あり、このうちの4分の1に免疫が関わっています。また「特定疾患」の56疾患についても、3分の1以上が免疫に関わるものです。
こうした疾患には「免疫により自分自身が攻撃を受ける」という共通の特徴があります。例えば、関節リウマチや天疱瘡もそうした免疫のエラーによって起こります。これらは「自己免疫病」とか「免疫疾患」と呼ばれ、治療のための研究が進められていますが、今のところ決定的な治療法は見つかっていません。
免疫とは自己と非自己を識別し、非自己を排除する仕組み
免疫に関係する疾病の決定的な治療法がなかなか見つからないのには2つの理由があると渋谷氏はいいます。
1つは、免疫が他の臓器と異なり、全身に分布しているためです。扁桃、リンパ節、リンパ管、小腸、胸腺、脾臓、骨髄などを中心に、全身に行き渡り、至るところで「免疫疾患」が起こる可能性があります。そのため研究が複雑で難航するといいます。2つ目は、そもそも免疫が自己を攻撃する「きっかけ」が明らかでないためです。免疫とは自己(自分)と非自己(自分でないもの)を識別し、非自己を攻撃し、排除するシステムです。
しかし、このシステムにエラーが生じると、自己を敵と間違って攻撃してしまうことがあります。例えば、膵臓が攻撃されると1型糖尿病に、肝臓が攻撃されると原発性胆汁性肝硬変に、中枢神経が攻撃されると多発性硬化症が生じます。
また、バセドウ病や多発性筋炎も「免疫疾患」で、これらはいずれも難病ですが、なぜこのように免疫が自らを攻撃するのかについては、まだ研究途上で明らかになっていません。ちなみにアトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギーも「免疫疾患」の一種ですが、こうした症状の完治のためにも免疫のメカニズムの完全解明が待たれるところです。
免疫と脳血管疾患との関連
ところで、免疫と脳血管疾患との関係について、近年新たなことが分かってきています。これについて、吉村 昭彦氏(慶応大学医学部 微生物学・免疫学教室)が「免疫が脳梗塞の症状を左右する」と題して講演しました。
脳梗塞になると血流が滞った部位の神経細胞が死滅し、免疫機能によって排除されます。マウス実験では、脳で梗塞が起きると、白血球の一つで免疫を担うマクロファージが脳内に侵入し、ダメージを受けた神経細胞を攻撃するために特定のサイトカインが分泌されます。このサイトカインがさらに特定のT細胞を誘因し、傷ついた神経の排除を行うことが分かっています。
こうした免疫の働きは梗塞発症直後から3日がピークとなります。つまり梗塞を発症した3日以内に脳内の免疫を抑制すれば、損傷した神経細胞の排除の拡大を防ぎ、後遺症の軽減につながるのではないかと期待が寄せられています。
現在、こうした免疫機能の完全解明が新たな医療の開拓につながるとし、多くの研究者が日々奮闘しているとのことです。