人は有史以来さまざまなものを摂食し、生命を存続させてきました。中でも、発酵食品は健康管理に大きな役割を果たしてきたといえます。今回より2回にわたり、「長寿と発酵食品」の関係についてご紹介いたします。
発酵食品、世界中で伝統的に利用
日本で発酵食品というと味噌や納豆がよく知られていますが、世界中至るところに発酵食品は存在します。どの国や地域においても発酵食品は伝統的に用いられ、健康の維持に良い影響を与えてきました。
2013年5月27日(月)、東京国際フォーラムで、第13回21世紀の食と健康フォーラム「腸と長生き~プロバイオティクスで免疫力アップ」が開催されました。この中で、東京農業大学名誉教授の小泉武夫氏が「長寿と発酵食品」と題して講演しました。
日本では、江戸時代、庶民は医者にかかれるほど恵まれた状況になく、体調が悪くなれば「食」で養生するしか方法がありませんでした。
その代表的な「食」に甘酒があります。江戸時代には甘酒売りが至るところにいました。甘酒が庶民の健康維持に欠かせない食品であったことは多くの文献で紹介されています。
今では、冬にいただく印象が強い甘酒ですが、江戸時代は夏に飲むことが多く、とくに厳しい暑さによる疲れを癒すとされていました。そのなごりなのでしょう、俳句の世界で甘酒は夏の季語の代表となっています。
発酵食品の4つの特徴
甘酒は米と麹を発酵させたものですが、栄養学的に分析するとその甘さは100%ブドウ糖の甘味です。また、甘酒の中にはほとんどすべてのビタミンとアミノ酸が含まれています。
つまり甘酒は「完全なる栄養ドリンク」、「現代の点滴」といわれるほど栄養価の高い食品なのです。こうした甘酒で夏場の不調を乗り切ろうとしていた江戸時代の人々の知恵を我々も活かすことができるのではないかと小泉氏はいいます。
ところで、甘酒に限らず、すべての発酵食品には4つの特徴があると小泉氏はいいます。一つ目が保存性の高さ。二つ目は滋養成分が豊富に含まれること、三つ目は独特の風味、そして四つ目が生きている食べ物ということです。
発酵食品の保健機能、次々と明らかに
とくに二つ目の滋養成分が豊富という点については、近年さまざまな研究が進められています。これまで、発酵食品はなんとなく「体に好ましい食べ物のようだ」と、漠然と語られるに過ぎませんでしたが、これに科学的な研究が加わり、素晴らしい保健機能をもつことが次々と明らかになっています。
例えば、ヨーグルトには整腸、ガンの抑制、高血圧予防、免疫機能の向上、アレルギー抑制などの作用が報告されています。また、食酢には糖尿病や肥満防止、抗潰瘍、血中コレステロール低下などの作用、納豆には血管内コレステロールの排除、血栓溶解、脳卒中や心筋梗塞の予防などの作用が報告されています。味噌は胃ガンや動脈硬化、動脈硬化性心疾患、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの予防に役立つとされています。
発酵食品は「生きている食べ物」
そして四つ目の、発酵食品は「生きている食べ物」であるということに私たちは最も注目しなければならないと小泉氏はいいます。例えば、ヨーグルトをスプーンで一口食べるとします。その中にはおよそ1億個もの菌、つまり生きた命が含まれています。私たちが口にするすべての食べ物で、「生きたまま」食べられる物はそれほど多くはありません。
この「生きている食べ物」としての発酵食品の摂食が、どれほど私たちの健康維持に有益であるか、腸内有用菌とプロバイオティクス(=共生)の関係について次回お話しいたします。