ホリスティック医療という言葉をよく見聞きするようになりましたが、これは臓器とか細胞、神経などといった部分でしか人間を見なかった従来の西洋医学に対する反省から、「人間を全体的に見よう」と、アメリカで1960年代に生まれた新しい概念です。
すでにこのコーナーで紹介したシュタイナー医学やホメオパシーなどは、この代表的なものですが、「クナイプ療法」も発祥地ドイツを中心に広く採り入れられ、注目されています。
クナイプ療法は、ドイツ・バイエルン州のカトリック神父であったセバスチャン・クナイプ(1821~1897)によって今から100年以上も前に提唱された伝統と実績のある一種の自然療法で、自然の力を利用して人間のもつ自然治癒力を最大限に引き出すことを目的としています。ドイツでは、保険の適用が可能で国が健康増進策の一つとしている健康法です。
日本でも、財団法人大阪クナイプ療法協会など、導入を積極的にすすめているところは多いですし、この療法に関連づけたさまざまな商品も出回っています。温冷水浴による「水療法」、森林散策などによる「運動療法」、栄養などのバランスのとれた食事を摂る「食事療法」、ハーブや薬草を使った料理や入浴、アロマテラピーなどを採り入れた「植物療法」、それに心や身体と自然との調和を図る「調和(秩序)療法」の5つの柱から構成されています。
ドイツでは、温泉リゾート地として有名なバード・メルゲントハイム市のように国が決めた厳しい法律に遵ったクア設備などを持つ町が各地にあり、賑わっているといわれます。ドイツにおけるクナイプ療法の実情は、大和薬品(株)がメンバーとして加わっている日本食品機能研究会(JAFRA)が一昨年実施した「第3回国際統合医療ワークショップ」で、専門の治療院での水療法を参加者が見学・体験しています。
食事療法については、バランスのとれた食事は健康維持のために当然のことですし、運動療法については、森や山を歩くことでフィトンチット効果が得られることは以前から言われていたことです。とは言っても、療法である以上、専門の医師の力が必要なことは言うまでもありません。
林野庁が平成13~14年度に実施した調査(「高齢社会における森林空間の利用に関する調査報告書」)は、クナイプ療法について次のような報告をしています。
「ドイツにおける森林を活用したクナイプ療法に対する医療、療養面の森林の効用については、『多少なりとも期待できる』を含めると『期待できる』は72~91%と高い」。
この高い評価は、5つの療法すべてについて共通していますので、美しい自然環境は健康にとって欠かせないということですが、同庁はまた日本の森林の実情について、「現在のところ、医療、療養、保養、生活習慣病予防等といった明確な目的を持って整備された森林は見当たらない」と報告しています。健康のために望ましい森林づくりは、国や自治体にとって大きな課題といえましょう。 ・