健康豆知識

健康格言から学ぶ

掲載11 良薬は口に苦し

良薬とは、よく効く薬のこと。この諺の解説が、辞書にはこう載っています。「よく効く薬は、苦くて飲みにくい。」また、「本当に自分のためを思ってしてくれる忠告は、有難いが聞くのがつらい」とも述べています。

よく効くから苦いのか、苦いからよく効くのか。理屈はともかくとして、もともとこれは孔子の言葉で、「史記」に出ています。

「孔子家語」に「良薬苦口而利於病。忠言逆於耳、利於行。」の文章があります。孔子が言いたかったのは、薬のことを引き合いに出して、忠告の言葉についてではなかったかと思います。

「親父の小言と○○は後になって効く」という言葉もあります。○の中には、往々にして酒についての単語が入るようですが、これは人それぞれかもしれません。

中国名菜を謳い文句にしている有名な中国料理店では、夏のキャンペーンスローガンを「涼宴は、口に楽し、体に優し。」としています。

薬とは

薬には、いろんな意味があります。ある辞書によれば、こうなります。
①医薬品、②薬剤、③釉(うわぐすり)、④火薬、⑤賄賂(例:薬を利かせる)
⑥心や体のためになること。とくに、過ちを改めるのに効果のある物事(例:失敗もいい薬になる)

薬にはどんな種類が

薬には、いろいろな分類がありますが、大きく分ければ、内服薬、外用薬、注射剤の3つになります。いちばん私たちに関連があるのは、その効果が最大限に出るように考慮された形状や使い方による分け方です。

[形態による分類]
錠剤――薬を一定の形に圧縮して作ったもの。
顆粒剤――薬を粒状にしたもので、顆粒の大きさは種類によっていろいろです。
細粒剤――粉薬と言われるので、薬を粉末状にしたものです。
シロップ剤――糖類や甘味剤などを加えた飲みやすくしたものです。
このほか、軟膏剤、エキス剤、リニメント剤などといった種類もあります。

販売規制で分類すれば、医師・歯科医師の処方によって使用する医療用医薬品と、処方箋がなくても購入できる一般用医薬品(一般的に大衆薬と言われる)の二つになります。

一般用医薬品については、薬事法の一部が改定されて、平成21年6月1日からは薬剤師の説明がないと買えない薬も出てきました。

第一類から第三類に区分し、第一類医薬品については、薬剤師による情報提供(説明)と相談に乗ることが義務付けられ、第二類については、薬剤師のほか登録販売者に同様の行為が努力義務とされています。

開発の時期による分類では、最近よく耳にするジェネリック、後発医薬品と先発医薬品になります西洋薬、漢方薬、民間薬といった分け方もあります。

良薬とは

苦いから良薬ではなくて、効く薬が良薬と言えるでしょう。私たちは、体調が悪くなったり病気になったりしたときに薬を飲みますが、もともと体の調子や病気を治すのは本人の自然治癒力であって、薬はそのサブ的な役割をするにすぎません。いまもって、風邪を直接治す薬はありませんが、もし開発されたら、これこそ良薬でしょうか。

薬は、食道から胃を経由して十二指腸、小腸へと運ばれ、血液の中に入って全身を巡ります。こことき、薬の成分で作用するのはせいぜい2割程度で、ほとんどは異物として体の外に捨てられます。

ヒポクラテスの言葉に「歩くことが一番の良薬」があります。健康には、歩くことが一番、という意味でしょう。医食同源という言葉から考えれば、良薬とは、自然の摂理の中で育った、農薬などの薬剤や肥料などを使わない体に良い食材、ということになります。

医食同源

病気を治すのも日常の食事をするのも、どちらも生命を養い健康を保つために欠かせないもので、源は同じ、という考えが医食同源です。体に良い食材を毎日食べていれば、健康が維持でき、薬などは必要ない、という古くからの中国の考え「薬食同源」から作られた言葉です。

プラシボ効果

大きさや色など外見は本物の薬と同じで薬効成分を含まない薬を、プラシボと言い、ふつう偽薬と訳されます。

新しい薬の効果を調べる(治験)際の「二重盲検法」で、本物かプラシボかわからない状態で治験をし、本物の薬がプラセボよりも有効だったかどうかを判定する訳です。

今までの歴史の中で、プラセボに劣ったり、有意差が認められなくて発売中止を余儀なくされた薬もたくさんあります。「効く」と信じることにより、病気に対して精神的治癒力を出す効果のことも、プラセボと言います。

眠れないと訴える入院患者に、催眠薬と称して小麦粉を与えると眠れる、などと言ったもので、この場合は「気休め薬」などと呼ばれています。この効果は、暗示や自然治癒力などによると考えられます。

プラシボ(Placebo)はラテン語からきており、「私は安心する」とか「私は喜ぶ」などの意味だと言います。

薬石効なく

長い療養の末に残念ながら亡くなられたときに、「薬石効なく~」などと表されます。この場合の薬は、もちろん薬のことですが、石は岩石の石のことではありません。「いしばり」つまり、古代の医療器と言う意味があります。薬石を辞書で調べると、三つの意味が載っています。

①いろいろな薬や治療法。
②身のためになる物事のたとえ。
③禅寺で、非時の戒を守って夕食をとらなかったため、飢えや寒さをしのぐために温石(おんじゃく)として腹に当てた石。転じて、夜食の粥(かゆ)または夕食を指す。

薬品の研究開発費

ひとつの薬を開発するのに要する費用は、数十億から数百億円、期間は10数年を要すると言われます。開発したものがすべて製品化されるわけでもなく、さらに製品化には厚生労働大臣の承認が必要となります。

世界規模の製薬会社ともなれば、新薬ひとつを出すために必要な研究開発コストは、1000億円にもなります。

新薬は特許で守られますが、その期間は申請から原則20年。延長を申請して認められると、5年までの延長が可能となります。

ジェネリック医薬品というのは、こうした特許切れの薬品を他のメーカーが同じ成分同じ効き目で製造したもので、もちろん研究開発費がかかっていませんから、その分コストが安くなるわけです。

製薬会社にとって、新製品の開発は会社の命運を左右するもので、国内企業の場合、売上高の20%近くを研究開発に投資するのが標準的なビジネスモデルになっていると言われます。

最近は、臨床症例数の増加やアウトソーシングなどによって、研究開発費の50%以上を開発費が占める企業も多くなっています。

薬と水

顆粒や粉薬などは、ふつう水で飲みます。これには意味があって、水の働きを利用したものです。たとえば、苦味などの不味い味を感じにくくして飲みやすくする、薬の吸収を早める、薬を安全にお腹に送る、などです。

近ごろは、水なしで飲める薬も多く出回っていますが、これらは、不快感がなくて飲みやすい、吸収が早い、安全である、などの配慮がされています。

水もお茶も同じと勘違いする人もいますが、薬によってはお茶で飲んではいけないものもあります。医師や薬剤師などの注意を守ることは重要です。

食前・食間・食後

薬を飲むタイミングも、種類や症状などによってちがってきます。食事の前か、後か、間か。それぞれには、それぞれの意味があります。

食間の意味を食事中と勘違いしたという笑い話がありますが、これはあくまで朝昼夕食のそれぞれの間と言う意味です。食前・食後の二時間くらいと考えていただければわかりやすいのではないでしょうか。

薬で大事なことは、決められた量を決められた時間に飲むことですが、飲み忘れをしないことも重要です。一回忘れたから次に二回分いっしょに飲む、というのは正しくなく危険です。常用の薬を何回か休むと、症状が戻ってしまう場合もあると聞きます。

薬と副作用

薬が何らかの働きをするということは、反面副作用のあることを暗示しています。副作用はあってはならないと思う人も多いでしょうが、副作用のない薬はまずないと考えるのが普通でしょう。

たとえば、風邪薬を飲むと眠くなる、というのも、一種の副作用です。副作用の原因は、もちろん薬の成分そのものによる場合が多いですが、ほかにも、薬の使い方や、患者の体調・体質も考えられます。

処方薬については、受け取る際に副作用についてよく聞くことが大切ですが、市販薬でも副作用が出る場合があります。もし副作用の症状が出て気になる場合は、薬を中断して医師に相談することが必要です。

医療費と薬価

日本の医療費が年々増え続けていることは、新聞やテレビなどでよく見聞きしますが、実際、2005年に33兆円であった医療費が、厚生労働省の試算では2025年には56兆円にものぼると言われます。

普通、医療費といえば、診察料(初診料・再診料)、検査費、処置費、薬代を総合したものとなりますが、この中で唯一節約できるのが薬代です。処方は医師が決めますので、薬の種類や量を減らすことは困難で、ここでジェネリック医薬品の登場となります。

仮に、現在特許が切れている薬の全てをジェネリック医薬品に替えるだけで、日本の医療費は年間で1兆円節約できると言われます。医療費節減のために、厚生労働省では「2012年までにジェネリック医薬品の普及率を30%以上に引き上げる」という目標を立てています。因みに、ジェネリックの価格は、新薬の2~7割と言われます。

欧米の主な国では、特許期限が過ぎた医薬品の80%近くがジェネリックに替わると言われます。現に、ジェネリックの普及率を見ると、ある調査では、2006年の数量ベースのデータとして、アメリカ63%、カナダ61%、イギリス59%、ドイツ56%などとなっています。日本は、16.9%と、格段の差があります。

海と毒薬

遠藤周作の小説に「海と毒薬」があります。太平洋戦争末期、臨床実験の名のもとでアメリカ軍捕虜8人を生体解剖した事件を2人の研究生(医師)の心の葛藤を通して描いた作品で、生命の尊厳さを問うた作品として大変な話題になりました。

1986年には、熊井啓監督によって映画化され、再び脚光を浴びることになりました。翌年には、第37回ベルリン国際映画祭で銀熊賞審査員グランプリ部門を受賞しています。

この衝撃的なタイトルの意味するところについて、評論家は、海とは運命を表わす黒い海であり、毒薬とは、人間の意志や良心を麻痺させてしまう状況であろう、と解説しています。

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