健康豆知識

健康格言から学ぶ

掲載10 風邪は万病の元

風邪といえば、私たちにとって最も身近な病気の一つで、風邪を引いたことがない人なんて聞いたことがありません。

頭痛がする、熱がある、咳が出る、寒気がするなどといった日常的な症状が特徴だけに、ちょっと具合が悪かったり、あるいは具合は良いのだが別の事情があったりして勤めを休むときや、約束をキャンセルするときなどには、「とりあえず風邪」ということで、よくその理由にされます。

まさに、仮病の代表選手といったところで、私たちにとっては重宝この上ありません。

「風邪ぐらいでは休めない」と、本当に風邪を引いても休まない几帳面な人も多いですし、また「風邪ぐらいでは休むなよ」と意見する人も少なくはないはずです。

数日間安静にしていれば治るとか、たいしたことはないから玉子酒で大丈夫などと、ふだん軽んじられがちの病気ですが、「風邪は万病の元」という先人の言葉を忘れてはいけません。

風邪とは何なんだ

「医心方」という本があります。全33巻から成るこの書は、平安時代に出された日本最古の医学書と言われるものですが、この中に「風者百病之長也」の一文があります。

万病の元という発想は、すでにこの頃からあったわけです。この医学書には、風邪についての定義も載っています。曰く、風邪の風という字は空気の流れを指し、風邪とはこの空気が邪(よこしま)にねじ曲がっている、という意味であるとしています。

体内の気が悪い方に曲がっているという意味から、やはり風邪は多くの病気に発展する状態であるかのような気がしてきます。

ところで、風邪に発病することを「風邪を引く」と言いますが、どうして「引く」と言うのか。邪悪なもの、邪気を体の中に引き込むことが原因であることから「引く」となったという説があります。そういえば、インフルエンザの場合には「引く」とは言いません。

風邪を引くとは?

そもそも、風邪を引くとはどういうことでしょうか。体内の空気がねじ曲がってしまうといっても、これではよくわかりません。ほとんどの場合、体調が良くなかったり、免疫力が低下しているところにウィルスが入りこむことによって、どこかで炎症を起こす。

これが、風邪症候群といわれるもので、原因の9割以上はウィルスといわれます。その種類は数百。インフルエンザだけでなく、普通の風邪も夏風邪も、ウィルスが元凶です。

体内に免疫力が備わっていれば、NK(ナチュラルキラー) 細胞がこのウィルスをやっつけてくれますが、免疫力が落ちていると逆に負けて、発熱や頭痛、咳、痰、鼻づまり、などといった症状として現われるわけです。もちろん、重篤さは、体調や人によって違ってきます。

一口に風邪というより、風邪症候群という言葉に象徴されるさまざまな症状を見るにつけ、すべてに効く「万能風邪薬」はありえない気がします。

寒いと風邪を引く?

以前、「北海道の人は、どうして東京に行くと風邪を引くのか」という広告のコピーがありました。寒いからではなくて、人ごみやウィルスが原因であると考えれば納得できます。寒いから風邪を引くということになれば、北国では毎年大流行してしまうでしょうし、逆に夏風邪そのものが存在しないことになってしまいます。

冬に風邪が流行るのは、寒いからではなく、空気が冷たくて乾燥しているからです。ウィルスは乾燥したところが大好きで繁殖しやすい性質をもっていますし、またノドや鼻の粘膜は、空気が乾燥することでウィルスに感染しやすい状況になってしまうのです。マスクをしてノドや鼻を乾燥させない、加湿器などで部屋の湿度を60%程度に保つ、といったことに心がけることが大切です。

ある調査によれば、風邪を引いた原因について、一番多かったのは「人にうつされた」で54.6%。「自分の不注意」がこれに次いで45.4%でした。やはり、東京のような雑踏では風邪をうつされやすいということでしょうか。

犬も猫も

風邪は特定の病名ではありませんが、犬や猫などの動物も、鼻水が出たり、クシャミをしたりと、人間と同じ症状になることがあります。この場合も、もちろんウィルスによる感染です。

ペットに高価な衣装を着せたり、高級食材を与えたりする人が増えるなどのペットブームですが、最近では栄養剤やサプリメントを与える傾向もあるようです。こうした時代を先取りして、ペット用のサプリメントに注力するメーカーも多く見かけるようになりました。人間用のサプリを動物に与えることの是非についての問い合わせも多いと聞きます。

ところで、よく言われる「バカは風邪を引かない」という言い伝えについてですが、これは、熱が出る、頭が痛い、ノドが痛い、などといった症状になっても気にしないし、自覚もしない。バカは風邪も苦痛にならないという意味であると言われます。

別の説で、万人がかかる病気でもバカは別、という明らかに差別の表現もあります。いずれにしても、不適格な言葉であることは明らかです。

スペイン風邪

インフルエンザ第1号として歴史に名を残したのが、スペイン風邪です。1918年から1919年にかけて全世界に流行した、人類が初めて経験したインフルエンザのパンデミック(大流行)と言われるもので、ある資料では感染者数が6億人となっています。

これは、世界の人口の3割とも5割とも言われ、死者は4000~5000万人という説があります。日本でも39万人が死亡したと言われますが、数字についてはいろいろな説があります。

当時のデータや情報には不確かな要素が多く、断定できる数字は多くありません。有名な劇作家・島村抱月も、このとき亡くなったとされています。いずれにしても、万病に至る前に、風邪そのもので多くの人が命を落としたことになります。

ところで、このスペイン風邪ですが、発生源はアメリカです。当時は、第1次世界大戦中で、アメリカをはじめ多くの国は情報を検閲していましたが、中立国スペインは大戦と無関係であり、ここから情報がもたらされたことに、このネーミングは起因するとされています。また、スペイン王室にも患者が出たことが世界的に報じられて「スペイン風邪」と呼ばれるようになったとう説もあります。

アメリカのくしゃみ

アメリカのサブプライムローンに端を発する金融不安が、日本の経済や社会に大きな打撃を与えたことは、まだ記憶に新しいところです。日本にとって、アメリカの存在や影響力はたいへん強く、とくに経済に関しては、「アメリカがくしゃみをすれば、日本は風邪を引く」と言い伝えられてきました。

アメリカで起きていることが、すぐ日本にやって来る。最近では、アメリカのくしゃみで日本は肺炎になる、とさえ言い切る評論家もいます。

最近は中国の経済成長がめざましく、多額のアメリカ国債を購入するなど、アメリカ、世界経済への影響力を強くしているといわれます。こうした情勢が続けば、中国のくしゃみが日本にとって脅威になる日も、遠くはないでしょう。

こじらせると

万病とまでいかなくても、風邪がこじれたらどうなるか。一番多いケースは、肺炎を発症します。これが運悪くさらに進むと、肺不全を起こして命を落とすことにもなりかねません。

子供や高齢者はとくに要注意ですが、若い人で体力に自信があっても、たかが風邪、されど風邪。油断大敵です。高熱が長く続くと、脳炎に進む心配もあります。何もしないで寝ていても、心配はあります。

とくに風邪のときは水分を補給しないと脱水症状を引き起こす危険があります。水分が不足すると、血液どろどろ状態から、心不全や心筋梗塞を引き起こしかねません。

風邪を防ぐ

どうやって風邪を防ぐか。昔からいくつかの方法が語り継がれています。うがいや手洗いの励行。人ごみを避ける。栄養補給と運動に努める。部屋を乾燥させないで適度な湿度に保つ。日常生活で無理しない。食事や睡眠などに気を配り正しい生活習慣を続ける。などなど。

最近では、ウィルスと戦って勝てるように、日頃から高い免疫力を維持する努力をすることが大事、と言うお医者さんも増えています。

風邪を引いてしまったら

大手のエアコンメーカーが平成15年に主婦500人を対象に行った調査によれば、1年間に風邪を引く回数は、首都圏で平均4.3回。大阪圏で3.7回でした。

年齢別に見ると、20代5.1回、30代4.8回、40代4.2回、50代3.2回、60代3.4回でした。若い人ほど回数が多いのは、食事や生活習慣が不規則であったり、無理をしがちだからでしょうか。

この調査では、風邪を引いたらどうするかも聞いています。断トツの1位は「睡眠時間を十分にとる」で、82.8%。次に多かったのは69.3%の「水分を十分にとる」でした。

さて、風邪を引いてしまったらどうしたらいいか。お医者さんは、次のようなことを挙げています。ノドの乾燥を防ぎ、人にうつさないためにマスクをする。うがいをする。しっかり休養して、免疫力を回復させる。水分を補給する。ビタミン(A、C、E)をとる。市販の薬に頼り過ぎない。など。

風邪かな、と思ったら素人判断をしないで、早めにお医者さんに相談することが大切です。

究極のインフル対策

東京大学生産技術研究所と国立感染症研究所が、インフルエンザを広めない対策を共同発表しています。手洗い、うがい、マスクの必要性を説いた上で、新型インフルエンザが出現した場合、満員電車での通勤通学が感染の広がりを速くし、患者数を増やすとのシミュレーション結果から、究極は人ごみを作らないことであるとし、具体的には「通勤通学電車の運行を停止する」ことだと結論づけています。

理論上は理解できても、実行するには影響が大きすぎますが、それほど感染を防ぐことは容易でないということでしょう。

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