健康豆知識

健康格言から学ぶ

掲載7 三里四方のものを食べろ

様々な食材が、いつでもどこでも手に入るようになり、食べ物の季節や国境をあまり感じなくなりました。しかし、このような便利さを享受する前に、食事と健康を踏まえた上で、「食べる」という生きていくための基本を原点に戻って考える必要があるのではないでしょうか。

日本人は定住民族

民族を農耕と狩猟に分けると、元来日本人は農耕民族であると考えられます。同じところに居を構えて土地を耕して作物を作り、それを食することを基本としてきました。しかし、農耕だけでなく、近くで動物や魚を獲って食していたことも十分想像がつきます。生活は、まさに自給自足そのもので、地産池消の原点もここにあります。

医食同源

中国で古くから伝わる「医食同源」という言葉を耳にしたことがあることと思います。病気の治療も日常の食事も、どちらも人間の生命を養い健康を維持するためのもので、その源は同じであるという考えで、食事と健康との関係を言い表しています。また、「身土不二」(しんどふに)という考えもあります。人と土(環境)は一体であって、切っても切り離せないものであるという、もともと仏教用語ですが、これら二つの言葉から、「住んでいる土地の、それぞれの季節に収穫した旬のものを食べる」という食生活の知恵がうかがえます。

同じ顔をしているのに

しかし、近年の日本の野菜の、味と栄養価の低下は深刻な問題です。例えば、ほうれん草に含まれるビタミンCが20年前の半分に落ち込んでしまったと指摘されています。

「四訂日本食品標準成分表」(1982年発行)では、ほうれん草のビタミンCは65mgとなっていますが、「五訂」(2000年発行)を見ると、それが35mg、小松菜では75mgから39mgと、大幅に減少しています。成分がこれほどまでに激減していることは、栄養学から考えると非常に深刻な問題です。農薬や肥料の問題、大量生産、促成栽培など、農作物の作り方が昔とかわってしまったからでしょうか。

冬のきゅうり、夏のほうれん草

また、さらにこれに加えて季節による栄養価の差も問題となります。「五訂日本食品標準成分表」によれば、ほうれん草に含まれるビタミンCの量は、冬と夏では3倍も開きがあります。冬採りが60mgであるのに対し、夏採りの場合は20mgしかありません。月別に見ると、2月では73mgあるものの、7月は僅か9mgしかありません。元来、ほうれん草は、寒さに耐えて霜に当たり、甘くなり美味しくなって栄養分を蓄えるのです。暑い季節に育ったものが、美味しいはずもなく、栄養価が高いはずもありません。また、トマトの例をみますと、旬の7月には18mgあるものの、1月では半分の9mgしかありません。旬のものを食べることは、栄養学的にも理にかなっており、季節にはそれぞれふさわしい食材があるのです。

旬と地球温暖化

野菜や果物などの生産地をテレビで見ると、決まったように大きなビニールハウスが林立しています。農地というよりは工場群といった感じです。この中では、季節を超越した農作物を育てるために、連日連夜重油がたかれています。これが、二酸化炭素を排出します。「露地で栽培された農作物など、旬の食べ物を旬に食べる」と、国立環境研究所が提案していますが、重油を使った促成栽培はこれとは逆の行き方です。また、遠くでとれた食料を運ぶにも、輸送にかかる燃料が二酸化炭素を排出します。京都議定書を引き合いに出すまでもなく、二酸化炭素排出の削減は、国を挙げて進めなくてはいけない重要課題です。

旬のものを食べるということは、栄養学的に大切なだけでなく、地球温暖化の防止にも大いに役立つことを、私たちはもっと知るべきです。

輸入食品を食べる

地中海のマグロやノルウェーのさば、さらにはトンガのかぼちゃ、タイのアスパラなど、世界中の食料や食材が私たちの食卓を彩っています。食料自給率の低さが深刻な問題となっていますが、農林水産省の「食料自給表」によれば、カロリーベースで見た日本の自給率は、ここ10年ほど、40%で推移しています。

この40%という数字は、先進国の中では際立って低いものです。2003年の自給率を国別に比べてみますと、下から日本(40%)、スイス(49%)、オランダ(58%)、イタリア(62%)など。逆に、100%を超えているのは、オーストラリア(237%)、カナダ(145%)、アメリカ(128%)、フランス(122%)の4カ国だけです。日本も、1961年(昭和36年)には78%ありましたが、年々下がり続けています。

地のもの、旬のものを食べる、三里四方のものを食べる、という健康の基本から考えると、食料自給率を上げることは焦眉の急といえましょう。

野菜の自給自足

庭やベランダで、野菜を育てるのが流行していると聞きます。テレビ番組も盛んですし、そのための本もたくさん出版されています。種まきから、あるいは苗から、成長を確かめるのも楽しみですし、収穫の喜びはもっと大きいでしょう。

農薬は使わなくてすむでしょうし、肥料なども納得して施せますから、生産者の顔が見えないということもなく、安心して食べられます。ナスやトマトやきゅうりなど、野菜の花が想像以上に美しいことにも驚くでしょう。自宅の菜園は、まさに楽しい花畑であり自給自足の場でもあります。土いじりや植物の育成は、老化防止にも役立つでしょう。

地産地消

地産地消の動きは、生産者・消費者レベルの問題ではなく、近ごろでは政府や自治体も力を入れて取り組むようになりました。給食に地元で生産された野菜を使う学校も、増えています。

地産地消の考えは世界共通で、たとえばアメリカにはCSA(Community Supported Agriculture)(地域支援農業)がありますし、イタリアでは1986年に有名なスローフード運動が始まっています。どの運動も、土地土地の食材や食文化を見直し、地のものを食べるようにし、生産者を支援し、消費者を啓蒙する、といった内容になっています。

賢く食べる

厚生労働省、農林水産省、文部科学省は、「食生活指針」を策定しています。資料では、「近年、わが国の食生活は、海外からの食料輸入の増大に加え、食の外部化や生活様式の多様化が進展し、飽食とも言われるほど豊かなものになっている中で、脂質の摂り過ぎ等の栄養バランスの偏りや、食料資源の浪費等の諸問題が顕在化しています。」と述べ、国民的な運動を展開していくとしています。

食生活指針として、以下のような内容を掲げています。

• 食事を楽しみましょう。

• 1日の食事のリズムから、健やかな生活のリズムを。

• 主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。

• ごはんなどの穀類をしっかりと。

• 野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み合わせて。

• 食塩や脂肪は控えめに。

• 適正体重を知り、日々の活動に見合った食事量を。

• 食文化や地域の産物を活かし、ときには新しい料理も。

• 調理や保存を上手にして無駄や廃棄を少なく。

• 自分の食生活を見直してみましょう。

私たち人間も地球にすむ生物体です。その摂理に遵うのが、生きる基本ではないでしょうか。生きる原点。食べる原点。自然の流れに逆らわず、その土地でとれたものをその季節に食べる。身の回り三里四方の地域のエネルギーを食べていれば健康が維持できる、と先人は諺で教えています。

TOP