高度成長期以降、食生活や睡眠時間をはじめ、日本人の生活環境は大きく変わりました。科学技術や流通の進歩によって、国内はもとより世界各国の食べ物が、いつでも容易に手に入る時代です。しかしながら、飽食は動物性脂肪やたんぱく質、塩分などの過剰摂取をもたらし、様々な健康トラブルの原因となりかねません。
また、「眠らない店・街」が増えたことや、長時間労働などによる睡眠不足も問題となっています。「少し食べ、少し飲み、早くから休む事、これは世界的な万能薬」とフェルディナン・ヴィクトール・ウジェーヌ・ドラクロワ (Ferdinand Victor Eugène Delacroix,フランスの19世紀ロマン主義を代表する画家)は有名な言葉を残していますが、今こそこの言葉の通り、暴飲・暴食を戒め、十分な睡眠の確保に取り組む時期ではないでしょうか。
日本人は食べすぎ
近年がん患者が増え、「二人に一人ががんになる」と言われますが、患者の増加は食事の西洋化に比例していると指摘されます。野菜の摂取不足や肉類中心の食事、スナック類やファーストフードなどは、大人だけでなく、子供の健康をも損ない始めています。このことは、生活習慣病の若年化、低年齢化にもみられると言えるでしょう。食育の重要さが叫ばれる今日この頃ですが、これは子供だけではなく大人も学ぶべきテーマではないでしょうか。
米国では1990年に国立ガン研究所が、ガン予防のために「デザイナーフーズプロジェクト」(野菜の積極的な摂取を呼びかけた)を立ち上げ、大きな成果をあげています。日本でも2007年に「ガン対策基本法」が施行されましたが、日本でも食生活の見直しは急務であると言えるでしょう。
医者の養生
世に名医と言われる医師には、少食、しかも、肉類をさけた菜食中心が多くいらっしゃいます。消化器がんの外科医で、がんの予防・再発防止に食事による栄養・代謝療法を採り入れている済陽高穂先生は、昼食はリンゴとヨーグルトだけ。朝は、週2~3日は、無農薬・低農薬野菜の「朝ジュース」だと述べています。
日本生活習慣病予防協会の理事長である池田義雄先生は、メタボリックシンドロームが引き起こす生活習慣病を予防するライフスタイルとして、「一無、二少、三多」を提唱しています。「一無」は禁煙。「二少」は少食(腹七・八分目)、と少酒(アルコール量20g以内)。「三多」は、多動(運動)、多休(休養、睡眠)、多接(人、事物に接し、趣味を持ち、創造的な生活をする)を意味している、と解説しています。
甲田療法で知られる甲田光雄先生も、生前に「少食を守る人に天はほほ笑み、すこやかな長寿を与えてくれます」との言葉を残しています。
地産地消
「地産地消」という言葉はよく聞かれますが、これと同様の意味を持つ「三里四方の野菜を食べろ」という言い伝えも残っています。また、「身土不二」という言葉もありますが、これは、自分が暮らす土地から季節ごとに得られるもの(旬のもの)を食べるべき、という教えです。そもそも、日本人は、獲物を追って移動する狩猟民族ではなく、ひとところにとどまって農作に勤しむ農耕民族でした。そのため、身の回りにあるもの、身の回りで育てたものと食するのが習慣だったのではないでしょうか。その末裔である私たちも、同じような食生活をするのが本来の姿ではないでしょうか。
寝ない子も寝すぎる子も育たない
総務省の「2006年の社会生活基本調査」によれば、日本人の睡眠時間は、この20年間で最短になったといいます。年齢別にも、ほとんどの世代で減少していますが、特に45~49歳がもっとも短くて7時間5分。一番長いのは、85歳以上の9時間47分となります。名古屋大学大学院が文部科学省の委託を受けて行なった調査では、日本人約11万人の睡眠時間を調べたところ、7時間(6.5~7.4時間)の人が死亡率がもっとも低いことが明らかになりました。米国の調査でも、7時間睡眠が最も死亡率が低かったという同じ結果が出ています。注目すべきは、7時間より長くても短くても、死亡率が高くなることが、約10年間の追跡調査で判明したということです。
少食、少飲、早寝・早起きこそ健康の基礎。実践するのは容易ではありませんが、朝は早く起きて、夜は早く眠り、食事は、野菜や魚など地のものを適量に、という生活パターンが理想だと言えるでしょう。