健康豆知識

健康の温故知新

掲載37 「時間栄養学」で生活習慣病予防

栄養管理の新たな指針として「時間栄養学」が注目されています。以前にもこのコーナーで取り上げていますが、今回は「食べる時間」、「食べる速度」、「食べる順番」が人体にどのような影響を与えるのか、ご紹介いたします。

「時計遺伝子」を意識した栄養学

「時間栄養学」とは、すべての動植物が持つ「時計遺伝子」を意識した栄養学です。この「時計遺伝子」によりすべての動植物は昼夜を認識し、効率的な行動をとることができます。

例えば、人の体内では、日中の活動量やその日に浴びた光の量に応じて、眠りを誘発するホルモンの「メラトニン」が分泌され、夜になると眠くなります。すべての動植物はこうした「時計遺伝子」の的確な働きで、昼夜あるいは季節に順応した生き方ができるというわけです。

これまでの栄養学は、栄養素の種類や摂取量、効用に重点を置いていましたが、「時計遺伝子」と「テロメア」(細胞分裂時計といわれ、2009年にノーベル医学生理学賞を受賞)の発見で、現代栄養学に大きな変化が起こりつつあります。

どのように朝食・昼食・夕食を摂ればいいのか。どれ位の量をどのような順番、速さで摂ればいいのか。「時間栄養学」の活用により、私たちの精神性の向上や健康の基盤がより強固なものになることが明らかになりつつあります。

「食べる時間・速度・順番」の重要性

2012年12月14日(金)、医療法人社団こころとからだの元気プラザが主催する公開講座『働きざかりから始める、人生80年時代の健康づくり』が開催され、女子栄養大学副学長の香川靖雄氏が「時間栄養学」について解説しました。

「時間栄養学」は大きく分けて、「食べる時間」、「食べる速度」、「食べる順番」の3つの側面があります。
「食べる時間」については、「朝食」が重要な鍵となります。小中高生を中心に朝食の欠食が問題となっていますが、このことが学力や運動神経に著しく影響を及ぼしていることは疫学調査でも明らかになっています。

朝食を「摂取しているグループ」と「摂取していないグループ」では、前者の方が小中高の全ての世代で学力、運動神経ともに高くなっています。

また、体温にも違いが表れています。朝食を摂取したグループは体温が1~1.5度上昇しますが、摂取していないグループは体温の上昇がほとんどみられませんでした。こうした体温の変化は、「時計遺伝子」のスイッチがオンになっていることを示しています。

朝食を摂らないと、「時計遺伝子」が作動せず、ムダにエネルギーを消費しては危険だと察知し、その日の活動をセーブしようとします。このことが意欲や活力、記憶力の低下を招く要因となります。

人間の「時計遺伝子」を正確に作動させるのは、バランスの取れた朝食と朝日など光による網膜への刺激の2つであると香川氏はいいます。

ゆっくり食べると肥満抑制になる

「食べる時間」については、例えば、体内で脂肪の合成を促すタンパク質のBMAL1は夕方の18時以降に右肩上がりで活性化することが分かっています。そのため、遅い時刻に食べると、肥満になりやすくなります。

また、高血圧対策から減塩が推奨されていますが、塩分を取り込む体内ホルモンのアルドステロンは16時~20時頃に体内濃度が低くなります。そのため、この時間帯であれば多少塩分濃度の高い食事でも差し支えないということになります。

このように体内には時間により量が増減するホルモンや体内機能の活性・不活性があります。こうしたことを意識して栄養素を適切に補うことが「時間栄養学」なのです。

次に「食べる速度」ですが、これは肥満と密接に関係しています。肥満者の60%が「早食い」であることが分かっています。

咀嚼を始めてから脳内の満腹中枢が刺激され、満腹を認識するまでに20分程度を要します。ゆっくり食べると血糖値の急激な上昇を防ぐことができます。なによりも、ゆっくり食べること。それが肥満防止になると香川氏はいいます。

食べる順番で、血糖値の上昇をコントロール

「食べる順番」については、最近、これを活用したダイエットが話題になっていますが、これも血糖値の上昇と関係しています。
例えば、ご飯より、まず先に野菜など食物繊維の多いものを摂取すると血糖値の上昇が抑制されます。同じ献立やカロリーでも「食べる順番」により、血糖値の上昇の度合いが違うことが分かっています。

これは、一時期話題になった低GI(グリセミック・インデックス)値食とも関連します。例えば、同じ炭水化物でも米に比べてパンのほうがGI値が高く、ソバとうどんではうどんのほうがGI値が高いのですが、このGI値が高いと、血糖値が上昇しやすいのです。

一般的にGI値が低い食品とは、精製されていない食品、白米より玄米、小麦粉より全粒粉です。未精製のものほど消化に時間がかかりますが、これも「時間栄養学」の重要なファクターといえます。

糖尿病などの生活習慣病は栄養バランスの乱れや運動不足が原因です。これまで、メタボの人には栄養や運動の指導を、というのが一般的でしたが、今後は、「時間栄養学」を意識した食事で生活習慣病の予防が可能になりそうです。

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