健康豆知識

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掲載35 加齢と不眠の関係

現在、日本人の4人に1人が何らかの睡眠障害を抱えているといわれています。睡眠は健康や美容の維持に大切で、決しておろそかにはできません。今回は加齢と不眠の関係についてご紹介いたします。

不眠には4つのパターンがある

今や多くの日本人が睡眠に問題を抱えているといわれますが、日本以外の先進国諸国でも同様の傾向にあるようです。欧米では安眠をサポートするためのサプリメントの売上げが堅調で、コンビニエンスストアなどでも多く扱われています。

2012年11月13日(火)、有楽町朝日ホールで、アンチエイジングセミナー2012が開催されました。今回のテーマは「睡眠」で、聖路加国際病院で精神科医としても活躍する保坂隆氏が「不眠症」について講演しました。

保坂氏によると、睡眠の問題、つまり不眠には大きく分けて4つのパターンがあるといいます。4パターンとは、以下のようなものです。

1.入眠問題型(眠るまでに時間がかかる)
2.中途覚醒型(夜中に何度も目が覚める)
3.熟睡障害型(夢ばかり見ていて熟睡感が得られない)
4.早朝覚醒型(異常に早く目覚める)

睡眠の質、加齢により低下

1の入眠問題型については、比較的幼少期から始まっており、ある種の習慣になっている可能性が高いと保坂氏はいいます。つまり、子どもの頃から寝入りが悪いと、大人になってからも眠りに就くまで時間がかかるということです。そのため、これを改善するには、就寝前の時間の過ごし方を工夫するなど、ライフス タイルを変えていく必要があるといいます。

2,3,4は中高年型ともいえるものです。誰もが歳をとると早起きになるという経験がありますが、「睡眠の質が加齢によって低下する」という事実はあまり知られていません。これは、医学的にも明らかなことで、睡眠の質は、20歳をピークに緩やかに右肩下がりで低下していき、40歳を境に一気に低下するようになると保坂氏はいいます。

とくに2,3,4については加齢に起因することが多いため、若い頃のように「長時間ぐっすり眠る」というのではなく、「短時間でも良い睡眠」をとるということを目標とすることが大切です。

ただし、一つだけ注意が必要なことがあります。それは、30代で4の傾向が強い場合です。これは加齢の問題ではなく鬱病の初期症状の一つではないか、と保坂氏はいいます。鬱病が起因する睡眠障害の場合は、まず、鬱病の治療が必要となります。

メラトニンの分泌が睡眠の質を左右

ところで、「睡眠の質が加齢によって低下する」というのは、どのようなメカニズムなのでしょうか。睡眠を誘発する要素は2つあります。1つがメラトニンです。これは脳内の松果体から分泌されるホルモンで、このメラトニンが分泌されると眠りが誘発されます。

不規則な生活やバランスを欠いた食生活ではメラトニンが分泌されにくく、睡眠の質も低下します。そのため、メラトニンの正常な分泌には規則正しい生活や体内リズムを整えることが非常に大切です。

もちろん、メラトニンの分泌は生活の質がどれほど良くても、加齢とともに分泌量が減少します。従って年齢とともに睡眠時間が短くなるのは、生理学的な見地からも当然といえます。

睡眠を誘発するもう1つの要素は「疲労」です。
新陳代謝が活発で、1日中、目一杯活動している子どもはすぐに良質な睡眠を得ることができます。しかし、成人は、精神的ストレスが多いにもかかわらず、肉体的には運動不足傾向で、いわゆる「正しい疲労感」が得られていません。加えて、メラトニンの分泌も低下しており、睡眠が誘発されにくい状況にありま す。

早く目覚めても、気にせず起きて活動する

理想的な睡眠時間は6~7時間というデータがあります。これについて、保坂氏も医学的にみて最低でも6時間は睡眠を確保することがベターであるといいます。

不眠症には正確な定義がなく、自覚症状のみで判断・診断していますが、不眠症と主張する人の50%が睡眠時間が6時間以下であることが多く、この6時間ということに無意識的にこだわる傾向があるようです。

仮に早朝覚醒が続いたとしても、加齢に起因する自然現象と受け止め、シリアスになりすぎないことが大切です。何より、最初の4時間で睡眠全体の70%の効果が得られているため、早く目が覚めても、気にせず起きて活動しても支障はなく、4時間眠れていれば最低限問題はないと保坂氏はいいます。

90分の倍数を意識して起床時間や就寝時間を設定

ところで、睡眠は、夢を見ているレム睡眠と夢を見ていないノンレム睡眠の2種類の異なるリズムで成り立っています。ノンレム睡眠からレム睡眠に至るまでの時間はおよそ90分です。

レム睡眠が終わる頃に目が覚めると、体温も目覚めも快適で熟睡感が得られやすくなります。そのため90分の倍数を意識して起床時間あるいは就寝時間を設定するのが良いと保坂氏はいいます。

メラトニンは加齢とともに減少しますが、それを緩やかにするためには規則正しい生活とバランスのとれた食生活が欠かせません。また正しい疲労感を得るためにはやはり適度の運動が必要です。

軽く運動をして体温を高めておくと眠りに入りやすいため、就寝前の入浴やストレッチは理にかなっています。不眠症だと悩む前に、まずは生活習慣を見直してみることが大切です。

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